アイルランド内戦、血の日曜日事件…映画で語られる、北アイルランドの歴史
先日行われた第94回アカデミー賞にて、見事、ケネス・ブラナーが脚本賞に輝いた『ベルファスト』。監督も務めたブラナーの幼少期をモチーフとした半自伝的な本作は、1969年の北アイルランド、ベルファストを舞台に、激動の世の中に翻弄されながらもたくましく成長する少年とその家族の姿を描いている。
北アイルランドと言えば、「北アイルランド問題」と呼ばれる複雑な歴史を持ち、これまでに数多くの映画の題材として描かれてきた。今回は『ベルファスト』と共にそんな背景を理解できる映画をいくつか紹介していきたい。
問題の根幹となるアイルランド内戦を扱う『マイケル・コリンズ』
北アイルランド問題の根底となっているのが、アイルランド独立戦争とそこから続くアイルランド内戦。この歴史についての映画はいくつも作られており、そのうちの一つ『マイケル・コリンズ』(96)は、独立運動を指揮したマイケル・コリンズを中心に激動の時代を描き、第53回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞するほど高く評価された。
長らく英国に支配されてきたアイルランドの独立を目指すマイケル・コリンズ(リーアム・ニーソン)は、エイモン・デ・ヴァレラ(アラン・リックマン)ら指導者と共に独立運動を展開。IRA(アイルランド共和軍)を率いて、取締りを強めるイギリスの要人を暗殺するなど、カリスマとして、アイルランドの代表の一人として英愛条約の交渉をまとめるが、その条約を巡り、デ・ヴァレラらとは袂を分かつことに。激動の時代でアイルランドの独立を目指した男の生涯が綴られていく。
本作でも語られているように、第一次世界大戦後の1919年に独立を宣言したアイルランドはイギリスの鎮圧部隊と戦い、1921年の英愛条約によって自治を獲得し、アイルランド自由国として成立。しかし、この英愛条約を発端にアイルランド内戦へと突入してしまう。
というのも条約の内容が、アイルランド自由国があくまでイギリスの自治国であること、そして1920年のアイルランド統治法で分離されて誕生した北アイルランド議会の存続を認めるイギリスに有利な内容であったため、一部の反発を生んでしまったのだ。
ケン・ローチ監督の『麦の穂をゆらす風』(06)も独立戦争から内戦までがテーマ。アイルランド南部の田舎町に暮らす兄弟が、独立戦争への参加を経て、英愛条約を巡り違う立場になったことで悲劇的な結末を迎えるヒューマンドラマだ。こちらは第59回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに選ばれた。
紛争に翻弄される普通の一家にスポットを当てる『ベルファスト』
そんなわだかまりと共に成立した北アイルランドを舞台にした『ベルファスト』。本作で描かれるのは、北アイルランド紛争へと突入していった1969年の首都ベルファストに暮らす少年とその家族の日常だ。
9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)は、ロンドンへ出稼ぎしている父、厳しくも愛情深い母、頼りになる兄、相談相手の祖父母、大好きな友人たちに囲まれ幸せな日々を送っていた。しかし、プロテスタントによるカトリック教徒に向けられた暴力によって街は分断され、一家も街を離れるか否かの決断を迫られる。
北アイルランドは、歴史的な流れからイングランドの入植者が多く、カトリックが多いアイルランドとは反対にプロテスタントが多い地域。そんな背景もあり、独立戦争の際にアイルランドから分離する形で成立した。そして1960年代になりアメリカでの公民権運動の流れから、少数派のカトリックが宗教差別に対し声を上げると、プロテスタントの過激派が暴力で反発、互いに武装し合い…と暴動が次々と起こる事態へと発展していってしまう。
『ベルファスト』では、プロテスタントとカトリック両宗派が暮らす街を舞台に、宗教の違いが引き起こす状況に戸惑う子どもたちの姿や、同じプロテスタントでも過激派のユニオニストの行動に対して眉をひそめる人たちなど、宗教対立が市民にどのような影響をもたらしていたのかが語られていた。
また『ベルファスト71』(14)は、カトリック系組織のIRA(アイルランド共和軍)を制圧するためにベルファストに送られたイギリス軍の新兵が、一人敵地に取り残されてしまったら…というフィクションだが、同時代のベルファストを舞台としており、イギリス兵の視点から暴動の様子が綴られている。