アイルランド内戦、血の日曜日事件…映画で語られる、北アイルランドの歴史
音楽ムーブメントの裏側で起きた凄惨な事件『グッド・ヴァイブレーションズ』
北アイルランド、ベルファストからTHE UNDERTONES、RUDI、THE OUTCASTS、PROTEXといったロックバンドを世界に送り出したレコード店&音楽レーベル「GOOD VIBRATIONS」を題材に、そのオーナーであるテリー・フーリーの半生を映画化した『グッド・ヴァイブレーションズ』(12)も、また同時代のベルファストが舞台。
1970年代、北アイルランドは紛争のまっただなかのため、ツアーにやってくるバンドがほとんどおらず音楽産業は壊滅状態。そんななか、しがないナイトクラブでDJをするテリー(リチャード・ドーマー)は、ベルファストにレコード店「GOOD VIBRATIONS」を開くと、音楽で理不尽な警察に対抗するパンクバンドに心奪われ、彼らのレコードをリリースすることを決意。紛争と政治思想に振り回されながらも、音楽を広めようと奮闘していく。
この物語の背景にあるのが「マイアミ・ショーバンド虐殺事件」と呼ばれる1975年の出来事。アイルランドの人気グループ、マイアミ・ショーバンドのメンバー3人が、ツアーで訪れた北アイルランドからの帰途、アルスター義勇軍(英国への残留を主張するユニオニストたちの組織)によって殺されてしまった事件だ。
この事件は、Netflixで配信されている『リマスター: マイアミ・ショウバンド』というドキュメンタリーにもなっているので、興味を持った人はあわせてチェックしてみてほしい。
「血の日曜日事件」を再現した『ブラディ・サンデー』
ポール・グリーングラス監督による『ブラディ・サンデー』(02)は、タイトルの通り、北アイルランド紛争における1972年の「血の日曜日事件」を映画化し、第52回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。
北アイルランドで公民権運動のリーダーを務める下院議員アイバン・クーパー(ジェームズ・ネスビット)はカトリック系に対する差別反対の平和的なデモを計画したものの、イギリス軍は過剰な警備強化でデモ隊を刺激。やがて一部の若者が投石を始めたことから現場は混乱し、イギリス軍が非武装のデモ隊に発砲、多くの市民が亡くなる最悪の事態を招いてしまい…と、事件をドキュメンタリータッチでなぞり、その悲惨な現場をリアルに映しだしていく。
1972年1月30日にロンドンデリーで起き、一般市民14人が死亡した悲劇的なこの事件。なおこのデモは、IRA容疑者に対する公判なしの拘禁を認めるという権限や雇用差別、カトリック系に不利な選挙制度など、長らく不平等な政策が行われていたことに起因している。
刑務所内でも戦いは起こっていた…!『HUNGER ハンガー』
この「血の日曜日事件」を経て、IRA暫定派とウィリアム・ホワイトローをはじめとするイギリス政府の交渉が行われ、結果の一つとして刑務所内での特別カテゴリーというものが導入される。これは紛争関連で有罪となったIRA暫定派の囚人同士が、刑務所内で自由に交流できたり、囚人服を着なくて済んだりと政治犯として優遇するもの。しかし、その後の強硬政治によって1976年からは撤廃され、IRA闘士たちの刑務所内での扱いが悪化してしまう。
そんな事情から起きた出来事に焦点を当てたのが、『それでも夜は明ける』(13)のスティーヴ・マックィーン監督の長編デビュー作『HUNGER ハンガー』(08)。1980年代の北アイルランドのメイズ刑務所に収監されたIRA暫定派のリパブリストたちが起こしたハンガーストライキを描いている。
イギリス政府の強硬方針により、政治犯としての権利を奪われたIRA暫定派の囚人たちは、ボビー・サンズ(マイケル・ファスベンダー)を中心に劣悪な収容環境を変えるため獄中で抗議行動をするも、看守たちの暴力によって制圧されるばかり。そして、この惨状を変えるべく、1981年に命を懸けたハンガーストライキを行うことを決意する。
劇中にもあるように、リパブリストたちは政治犯待遇の復活を期待し、囚人服の着用を拒否して、毛布一枚に身を包んだり、排泄物を壁に塗りたくるといった行動を起こした。さらにハンストの最中にボビーは下院議員に出馬し、選出されたというからその影響力の高さは計り知れない。
今回紹介した以外にも、1974年にIRA暫定派によって引き起こされたバーミンガム・パブ爆破事件で無実にもかかわらず逮捕され有罪となったジェリー・コンロンの回想記を映像化したダニエル・デイ・ルイス主演の『父の祈りを』(93)など、北アイルランド問題を扱った作品は数多くある。平和について改めて考えたいこの時代だからこそ、ぜひチェックしてみてほしい。
文/サンクレイオ翼