エドガー・ライトが憧れたミステリアスなバンドって?『スパークス・ブラザーズ』&『アネット』のクリエイティビティに迫る
スパークス―半世紀以上のキャリアを誇り、現在も現役で活動しているが、その名を知るロックファンは決して多くないバンド。このミステリアスなアーティストに、『ラストナイト・イン・ソーホー』(21)も記憶に新しいエドガー・ライト監督がカメラを向けた。それが『スパークス・ブラザーズ』(公開中)。音楽ドキュメンタリー映画は目新しいものではないが、本作はライト監督が愛情をもってスパークスを描いた点で、実に独特だ。
売れることよりも音楽の革新性を追求してきたスパークス
まず、スパークスについて簡単に説明しておこう。彼らはバンドというより、ロンとラッセルのメイル兄弟によるユニット。米ロサンゼルス出身で1970年にレコードデビュー。そのサウンドはポップだが、明るいイメージの強いカリフォルニアのバンドとしては“ヘンテコ”すぎて、セールス的には低調だった。3年後、兄弟は渡英して「ディス・タウン」をレコーディング。これがヨーロッパを中心に大ヒットを飛ばすが、人気は長続きしなかった。このあと彼らは復活しては売れなくなり…というサイクルを繰り返す。映画では、そんなスパークスのキャリアに加え、彼らの音楽の革新性はもちろん、なぜ売れなくても復活をし続けてきたのか?というミステリーに言及する。
クィーンのブレイクを先取りしていたオペラ風の楽曲
まずは革新性について。作曲と鍵盤演奏を担当するロンはヒトラーを想起させる口ひげと、ニコリともしない鉄面皮がトレードマーク。逆にボーカルのラッセルはロックスター的な華があり、はつらつとした歌唱とイケメンのルックスで聴く者と見る者の注目を集める。このアンバランスなイメージこそがスパークスのイメージ。彼らの最初のヒット曲「ディス・タウン」はオペラ風のラッセルのボーカルがロックに結びついたナンバーで、これは似たテイストのバンド、クィーンのブレイクを先取りしていた。
さらに1979年のアルバム「No.1イン・ヘブン」では、シンセサイザーの可能性にいち早く注目。のちに訪れるテクノ・ポップやエレクトロ・ポップのブームの先駆けとなる。ちなみに、当時5歳のエドガー・ライト監督は、この時に初めてイギリスの音楽番組でスパークスを目撃し、強いショックを受けたのだった。
80年代もコンスタントにアルバムを発表したスパークスだったが、売れないバンドは容赦なく契約を切られるのがレコード業界の掟。辛酸を舐めた6年の沈黙を経て、1994年に復活したスパークスは新譜「官能の饗宴」を発表する。劇中、フランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスは「スパークス、まだいたのか!と思った」と述懐しているが、これは当時の多くのロックファンが感じたことだろう。ユーロディスコ風のこのアルバムはドイツを中心としたヨーロッパでヒットを飛ばす。しかし、再びセールスの不振が襲ってきて、彼らをまたも過去の存在にしてしまう。