犬山紙子が『とんび』から現代社会の子育てを考える「“助けて”を言えない人を救う“お節介”は私の憧れ」

インタビュー

犬山紙子が『とんび』から現代社会の子育てを考える「“助けて”を言えない人を救う“お節介”は私の憧れ」

「時代の社会背景を背負った女性像として造形されているのがすばらしい」

だが一方で、たえ子を巡る物語には、昭和の悪いところが詰め込まれているとも指摘する。「嫁ぎ先の農家で女の子を産んだとはげしくいじめられ、帰ってきたというバックボーンがたえ子にはあるんです。しかも『私は娘を捨てた親だから』といじめられた側が、ずっと罪悪感を持ち続けている。それが観ていて本当に苦しくて。男尊女卑や女性のモノ化など、この時代の人権無視が本当に悲しい。ただ、娘さんからたえ子を訪ねてきてくれて、葛藤もあった先に、最後は娘さんが幸せそうにしている写真を眺めながら、たえ子も本当に幸せそうな顔をしていて」とホッと息をつく。

昭和を生きるたえ子は周りのみんなを支えるお姉さんのような存在
昭和を生きるたえ子は周りのみんなを支えるお姉さんのような存在[c]2022「とんび」製作委員会

対して犬山が最も惹かれたのは、平成の時代に登場する女性、由美()の描かれ方だった。アキラの年上の恋人であり、後に結婚相手としてヤスに紹介する。「平成初期はいまよりもずっと、“女性は結婚して家庭に入り、子どもを産むのが幸せ”といった価値観が強い時代だったと思うんです。そんな時代における、すごく自立した芯のある女性という由美の描かれ方が、とても好きでした。『こういう女性たちが頑張ってくれたから、令和の時代で私たちがこうして仕事ができているのか』と。そんな彼女にアキラがしっかり惹かれていること、その2人の関係性もとてもよかったですね」。

【写真を見る】杏が仕事と子育てに奮闘する平成の女性像を体現!ファッションにも注目
【写真を見る】杏が仕事と子育てに奮闘する平成の女性像を体現!ファッションにも注目[c]2022「とんび」製作委員会

昭和を生きるたえ子、平成を生きる由美、登場するほかの女性たち。「様々な女性たちが、ちゃんとその時代の社会背景を背負った女性像として造形されているのがすばらしいですね。そこにちゃんとリアリティを感じ、すごく腑に落ちました」と、女性像の変遷と描かれ方を本作の優れた点として挙げた。

「子どもを愛しいと思った時、私もつい娘に歌ってしまう」

そして、アキラがまっすぐに育ったのも、やはりヤスの愛情をしっかり感じていたからだろう。そんなヤスの“自然発生的”な愛情の発露が、犬山自身の家族の姿にもリンクしたようだ。「ヤスは、いつもアキラに歌を歌ってあげていますよね。幼いアキラを自転車に乗せている時も、アキラが大きくなっていっても。親の愛情を感じるのって、そういうなに気ない瞬間なのかなと感じました。子どもを愛しいと思った時、私もつい歌ってしまうんです。私の母も自作で『なんでうちの子はこんなにかわいいいの~』みたいな曲をよく歌っていましたが、私もいま、自分オリジナルの曲を娘に歌っているんですよ(笑)。歌って、こうして生まれるものなのかと実感しています」と楽し気に明かす。

世代問わず、子どもの愛しさを歌で愛情表現する親
世代問わず、子どもの愛しさを歌で愛情表現する親[c]2022「とんび」製作委員会


また、自身の母を長く介護してきた犬山にとって、ヤスとアキラの親子の会話で忘れられないシーンがあった。「ヤスが『そんなこと言われたら、お父ちゃん、100まで生きな』というようなことを言って。それに対してアキラが『生きてよ』と返事をするんです。するとヤスが『本当に俺は100歳まで生きる!』という気持ちを持つシーンが、とても好きでした。私も母を20代ずっと介護していましたが、同じような気持ちで。姉も私も弟もやっぱり“生きていてほしい”気持ちがあるからこそ、介護し続けているんだな、と改めて思いました。そして、その願いはちゃんと伝えた方がいいし、そういう気持ちや言葉が力になるということを経験から感じています」と語る。

■犬山紙子
1981年、大阪府生まれ。エッセイスト、コラムニスト。2011年に出版した女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで描いたブログ本が注目され、現在はテレビ、ラジオ、雑誌など幅広く活躍中。
2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。


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