犬山紙子が『とんび』から現代社会の子育てを考える「“助けて”を言えない人を救う“お節介”は私の憧れ」
「その優しさ、愛ゆえの不器用さに、ヤス萌えする人は続出でしょう」
さらに本作の大きな魅力として、ヤスの愛すべきキャラクターを挙げる。犬山は「時々『やれやれ』とは思いますが(笑)」としながらも、ヤスの“不器用さ”が大きなテーマの一つだとも語る。「ヤスは奥さんに対しても、結婚してうれしいのに素っ気なく振る舞うし、うまく『愛している』とも言えない。アキラが大きくなって巣立つ時もまた不器用で…。ヤスには特に、“寂しいと言えない不器用さ”を非常に感じます。アキラに成功してほしいし、大学合格も東京行きも喜んでいるけれど、やっぱり寂しい。でもその言葉で愛する人を縛ることが怖いから、決して寂しいと言えなくて。その優しさ、愛ゆえの不器用さがアキラとのシーンにギュッと凝縮されていて、本当にヤスが愛しいです」と目を細める。
そして「いつもはダンディで、クールで、すごくカッコいい男性というイメージが強い阿部寛さんが一転して、大型犬のような風情なのが愛しくて(笑)。特に、昭和の男としては涙を見せちゃいかん!と思っていたのか、幼いアキラを連れて行った銭湯で、泣きそうになるといちいちお湯にザバ~ンと入って涙をごまかす姿、さらにその後、シャンプーをしながら泣きそうになって、お湯をかけたら目にしみて…。そこまでして涙をごまかそうとするヤスの愛しさよ、と(笑)。ヤス萌えする人、続出でしょうね」と阿部寛ファンが聞いたら飛びあがりそうな萌えポイントも伝授。
「『とんび』を観ると、人にお節介をしようという気持ちが沸くと思う」
昭和から平成、そして令和へ。昔はよかったな…と懐かしむだけに留まらない本作の持つ力が、後味を未来につながる清々しさへと導く。犬山も「昭和のころのような人間同士の距離感自体を取り戻すのは、いまとなっては非常に難しい。でも同じような形ではなくても、この映画を観ると、人にお節介をしようという気持ちが沸くと思うんですよね。なにかあったら声を掛けてみよう、とか。そんな喜びや、そういう気持ちがみんなに少し芽生えるだけでも、形は違ってもすごくいい結果が生まれていくんじゃないかな」と確信する。
そんな小さな気持ちが放つ力の大きさを、犬山は子育て中の親同士の間でもよく聞くという。「子連れで公共機関を利用する際、すれ違いざまにニコッと子どもに笑いかけてくれたり、『かわいいわね』とか、泣く子どもに『泣くのが仕事だもの』と優しいひと言を掛けてもらえただけで、本当に救われるという声をよく聞きます。それは私自身も痛感したことでもあります。そんな小さなひと言や笑顔で、怒られるのではないか、迷惑をかけてしまうのではないかという肩身の狭い思いから解放されて、“この社会に子どもがいていいんだな”という気持ちになれるんです」。昭和37年から60年にわたる親子の姿を描いた映画『とんび』は、いま、そしてこれからの私たちの世界に、そんな“ポジティブで優しい力”を授けてくれる作品なのだ。
取材・文/折田千鶴子
1981年、大阪府生まれ。エッセイスト、コラムニスト。2011年に出版した女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで描いたブログ本が注目され、現在はテレビ、ラジオ、雑誌など幅広く活躍中。
2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」の立ち上げ、社会的養護を必要とするこどもたちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。
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