「ファンタビ」グリンデルバルドは単なる悪役じゃない!名優マッツ・ ミケルセンの“悪役列伝”でひも解く人間味とは?

コラム

「ファンタビ」グリンデルバルドは単なる悪役じゃない!名優マッツ・ ミケルセンの“悪役列伝”でひも解く人間味とは?

『バレット・オブ・ラブ』の狂気じみた“愛”に身を焦がす悪党、ナイジェル

グリンデルバルドとダンブルドアは若いころに出会い、志を同じくした盟友で“血の誓い”を結んでいる。この誓いによって互いを攻撃することができないのだが、それ以上に2人の絆の深さ、複雑さも感じさせる。魔法族がマグルを支配下に置くという構想は、彼らの心がかつて一つであったことを象徴するものであり、その野望を完遂することで、グリンデルバルドは想い人への愛を示そうとしているのでは?とも考えられる。

グリンデルバルドとダンブルドアは、かつて志を同じくした盟友だった(『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』)
グリンデルバルドとダンブルドアは、かつて志を同じくした盟友だった(『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』)[c] 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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こういった“執着心”からひも解かれるのは、『バレット・オブ・ラブ』(13)でのナイジェル役だろう。物語の舞台はルーマニアのブカレスト。ナイジェルは暴力事件や恐喝、薬物売買、殺人など様々な犯罪に手を染めているが、元妻のガブリエラ(エヴァン・レイチェル・ウッド)への狂気じみた“愛”に身を焦がしている。自分から離れようとする彼女にしつこく付きまとい、男が近づこうものならすかさず排除しようとする。シカゴからブカレストにやって来て、ガブリエラに一目惚れしたチャーリー(シャイア・ラブーフ)の命も奪おうとした。上記の説明通りナイジェルは悪党なのだが、ミケルセンが演じただけあって、とにかく色気がすごい。チャーリーに対してガブリエラが、「ナイジェルほど美しい人はいない」となれ初めを語るシーンもあるのだが、その言葉にも納得である。

狂気じみた“愛”に生きるナイジェルを演じた『バレット・オブ・ラブ』
狂気じみた“愛”に生きるナイジェルを演じた『バレット・オブ・ラブ』[c]Everett Collection/AFLO

支配欲に駆られた『カオス・ウォーキング』のプレンティス首長

同じく執着心という点では、『カオス・ウォーキング』(21)も捨て置けない。西暦2257年、地球人が住み着いた新天地の惑星、ニュー・ワールドが舞台のSF作品で、ミケルセンは街を牛耳る首長のプレンティス役で出演している。この惑星では、男性は“ノイズ”という謎の現象によって感情や思考が視覚化され、女性は死に絶えてしまったという。そんな場所に、突如として宇宙船が墜落し、唯一の生存者にして女性のヴァイオラ(デイジー・リドリー)が現れ、街は混乱状態に。プレンティスは街の秩序=自身の権力を守るため、逃走するヴァイオラと彼女に同行するトッド(トム・ホランド)を執拗に追い続ける。支配欲が強く、どこまで逃げても迫ってくるプレンティスの執拗さは、人々に恐怖と絶望感を抱かせるには十分だ。

男性だけが暮らす街を牛耳る、首長のプレンティス役で出演した『カオス・ウォーキング』
男性だけが暮らす街を牛耳る、首長のプレンティス役で出演した『カオス・ウォーキング』[c]Everett Collection/AFLO

グリンデルバルドとダンブルドアの関係にも通じる?「HANNIBAL/ハンニバル」の宿敵ウィルへの想い…

ミケルセンを語るうえで外せないのが、2013~15年にかけて3シーズンが製作されたドラマ「HANNIBAL/ハンニバル」で、『羊たちの沈黙』(91)などで有名な“人食いハンニバル”ことハンニバル・レクター博士を演じている。所作の一つ一つが美しく、美食家でもあるハンニバルの華麗な調理&食事シーンも話題となった。もちろん、食材になっているのは…。

ハンニバルの華麗な調理&食事シーンも話題に(「HANNIBAL/ハンニバル」)
ハンニバルの華麗な調理&食事シーンも話題に(「HANNIBAL/ハンニバル」)[c]Everett Collection/AFLO

人食いの殺人鬼として暗躍するハンニバルだが、表向きは高名な精神科医。連続殺人事件を捜査することになった、自閉症スペクトラムの一種を持ち、犯行動機や犯人の感情に共感できるウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)の精神鑑定をするために登場する。しかし、カウンセリングを行うなかでハンニバルは、ウィルを精神的に追い込み、言葉巧みに洗脳して記憶まで操作。彼を殺人事件の犯人に仕立て上げてしまう。

ウィルのカウンセリングを行うハンニバル(「HANNIBAL/ハンニバル」)
ウィルのカウンセリングを行うハンニバル(「HANNIBAL/ハンニバル」)[c]Everett Collection/AFLO

このような経緯もあり、ハンニバルとウィルは敵対しているのだが、その関係性はかなり複雑。恋愛感情が明確に示唆されることはないが、互いに相手を想い合う言動を繰り返し、血まみれで熱い抱擁を交わすシーンもあった。

この関係は、強い絆で結ばれながら、袂を分かってしまったグリンデルバルドとダンブルドアにも通じるところ。劇中、何度も相手を意識する場面が差し込まれ、その絆が完全には切れていないことを思わせる。ミケルセン自身も「(グリンデルバルドとダンブルドアは)長いこと固い友情で結ばれていたが、その友情は壊れてしまった。お互いに対しては落胆の気持ちも持っている」とコメントしている。かつての盟友を失ったことで、グリンデルバルドが寂しさを抱えたナイーブな人物でもあると捉えることができる。

敵対しながらも、互いを想い合うハンニバルとウィル(「HANNIBAL/ハンニバル」)
敵対しながらも、互いを想い合うハンニバルとウィル(「HANNIBAL/ハンニバル」)[c]Everett Collection/AFLO

より“人間味”あるキャラクターとして創り上げられたマッツ版グリンデルバルド

前作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(17)まで同役を演じていたジョニー・デップの役へのアプローチは、圧倒的なカリスマ性を持って君臨する絶対的な“悪”だった。一方、本作でのグリンデルバルドは野心的な計画を進めながらも、ダンブルドアとの過去、そして現在が掘り下げられている。より“人間味”あるキャラクターとして、ミケルセンが表現しようとしていたことが理解できる。

魔法族がマグルを支配することが“正義”と信じて揺るがないグリンデルバルド(『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』)
魔法族がマグルを支配することが“正義”と信じて揺るがないグリンデルバルド(『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』)[c] 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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こういった共感できる悪役像は、ここまでに紹介した悪役にも共通するところだと言えるだろう。欲深いル・シッフルやプレンティスに、愛する者を取り戻そうとして闇に堕ちたカエシリウス、愛に生きるナイジェルなどなど。(劇中で)どれだけの悪事を行おうとも、それぞれが抱えるバックグラウンドや苦悩を想像させられるので、簡単には断罪できない。そんな魅力的なキャラクターを軽やかに演じてしまうからこそ、マッツ・ ミケルセンに大勢が惹きつけられてしまうのだ。

文/平尾嘉浩

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