山下智久が“正直者”をコミカルに体現!「正直不動産」にあふれる多面的な魅力
マイケル・マンが製作総指揮を務めるWOWOWオリジナルドラマ「TOKYO VICE」をはじめ、ここ最近、海外のドラマや映画に出演し、役者として飛躍の時を迎えている山下智久。彼が事務所独立後初めて、3年ぶりに主演したNHKドラマ10「正直不動産」(毎週火曜22:00~放送)は、放送期間中に3度もの再放送が決定するなど、大好評のうちに幕を下ろした。本稿では、多面性を持った主人公・永瀬財地を好演した山下の魅力をプレイバックしてみたい。
「正直不動産」は、作画・大谷アキラ、原案・夏原武、脚本・水野光博による同名コミックを原作にした不動産業界が舞台のお仕事コメディ。数々のドラマを手掛けてきた根本ノンジ脚本のもと、家をめぐる様々な人間模様が綴られていく。山下演じる永瀬は、契約のためなら嘘もいとわないことから陰で“ライアー永瀬”と呼ばれる非情な不動産営業マン。巧みなセールストークで圧倒的な成績を誇っていたが、ある日、契約した土地にあった不気味な祠を壊した祟りで嘘をつけない体になってしまう。顧客たちに失礼な本音を次々に浴びせてしまい、成績はガタ落ちになるが、一方で正直だからこそ人の心を動かし、難題を乗り越えていく。
客の前ではニコニコと笑顔を浮かべ、調子のいい言葉ばかりを並べるが、客のことをお金としか思っていない裏表の激しいキャラクター像を存分に体現。高級なタワーマンションで暮らす絵に描いたような勝ち組の男ぶり、魅力的だが目の奥は笑っていない笑顔など胡散臭いキャラクターを、持ち前の端正なルックスを自覚的に“使って”浮かび上がらせる。
おおよそ好感が持てる人物とはいえない主人公像だが、そこから一転、意図せず正直者に変わり、契約に不利な内実や本音をペラペラと話してしまう様子を、山下は変顔もいとわない三枚目演技でコミカルに表現。自分の意思に反して言葉が口からあふれ出てしまう動揺や苛立たしさ、さらに嘘しかついてこなかった自分への失望など、コミカルななかにもしっかりと感情を盛り込んでみせたことで、“完璧”にしか見えずいけ好かなかった永瀬に、視聴者の大きな共感を集めてみせたのだ。
また、永瀬が面倒を見ることになる新人社員の月下(福原遥)とのコンビぶりも見逃せないポイント。カスタマーファーストをモットーとする夢見がちな月下に対し、序盤の永瀬は達観した現実的な説教をぶつけるなど、冷笑的に接する。しかし、次第に愚直な月下を放っておけなくなり、自身も顧客と真正面から向き合う機会を得ることで、心の底では不動産を愛している本来の自分自身に気づいていくのだ。異性としてではなく、いわば“同志”として名コンビになっていく2人の姿は、本作の印象をより一層爽やかなものにしている。
ドラマの前半では永瀬が善人なのか、そうではないのか、どこかグレーな部分も感じさせていたが、業界の悪習に対して本音をぶちまけていく姿は痛快で、山下も回を重ねるごとにヒロイックさを纏うキャラクター像の変化を的確に表現し、永瀬を魅力的な人物へと昇華していった。
特に、草刈正雄演じるミステリアスな登坂寿郎社長との関係性や、不動産業への熱い思いが明らかになってからの終盤は、本来の持ち味を存分に活かしたヒーロー性を開放。「私は嘘がつけない人間なんです」という決め台詞と共に、視聴者の期待に見事に応えてみせた。
6月7日に予定通り全10話での放送を終えたあとも止まない称賛の声に感謝の気持ちを込め、本日22時からは物語を振り返る特別番組「正直不動産 感謝祭」が放送される。出演者や制作者が、いまだからこそ言える撮影の舞台裏やドラマの魅力について語り尽くす本放送は、ファンならずとも注目だ。
コミカルさ、誠実さ、熱さ、時にはダークな一面まであらゆる魅力を放ち、山下智久の新たな代表作となった「正直不動産」。続編への期待の声も多く挙がるなか、山下が特別番組でなにを語るのか、期待したい。
文/サンクレイオ翼