隣人の秘密を覗き見しているかのような『わたし達はおとな』、社会問題と向き合う『FLEE フリー』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、身元の特定を防ぐためすべてアニメで描かれたアカデミー賞ノミネートのドキュメンタリー、予期せぬ出来事を前に大学生の男女がすれ違うヒューマンドラマ、2013年ぶりに長谷川博己&綾瀬はるかが共演するコメディと、”人間のリアル”を切り取る3本。
生々しくもリアルな質感に心がザワつく…『わたし達はおとな』(公開中)
まるで隣人の秘密を覗き見しているかのような不思議な手触りの作品だ。大学でデザインを学んでいる優実(木竜麻生)は演劇サークルに所属する恋人の直哉(藤原季節)と同棲生活を送っているが、ある日、妊娠していることがわかる。自分の劇団を持つという夢がある直哉と、そんな直哉に遠慮しつつも、妊娠とともに2人の未来を揺るがしかねない重大な事実も告げる優実。様々な問題をはらんだ予定外の妊娠という出来事は大人への通過儀礼としてはいささかハードで、待ったなしの現実に次第に追い詰められていく恋人たちの姿から目が離せない。「劇団た組」を主宰する劇作家の加藤拓也監督によるオリジナル脚本でつむがれるこの秀逸な恋愛ドラマで、とりわけ印象に残るのは不器用ながら懸命だった“20代の日常”を写しとろうとする周到な目線と、臨場感にあふれた会話劇としての巧みさだろう。相手との距離感を測りつつ放たれるセリフにはかすかな本音が混ざり込み、その生々しくもリアルな質感に心がザワつく。(ライター・足立美由紀)
過酷な半生から浮かび上がる世界の問題…『FLEE フリー』(公開中)
アカデミー賞初、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、 長編アニメーション賞3部門同時ノミネートされた本作はアニメだがドキュメンタリー。主人公は単身でデンマークに亡命したアフガニスタン出身のゲイ男性。特定されると彼だけでなく家族の命まで危険なため、本人の声以外はアニメで制作されている。アフガニスタンで生まれ育ったアミンは父が連行されたまま戻らず、残った家族と命がけで祖国を脱出する。だが、訪れたロシアでは犯罪が横行。早く出国したいアミンらは密輸業者を頼るが、費用は高額で、一人ずつしか、ヨーロッパへ渡れない。家族と離れ、知り合いもいないデンマークにたった一人で渡った時、アミンはまだ10代。30代となったいまでこそ成功を収めているが、パートナーにも心を開けず、20年以上、過去をひた隠しにしていた。紛争、人種差別、難民、LGBTQ…。明かされるアミンの過酷な半生からいまだ解決しない世界の問題が浮かび上がる。(映画ライター・高山亜紀)
観終わった後には清々しい気分になっている…『はい、泳げません』(公開中)
2013年の大河ドラマ「八重の桜」の夫婦役以来の共演!長谷川博己が泳ぐことができない哲学者の小鳥遊を演じ、綾瀬はるかが彼を泳げるようにする水泳コーチの静香に扮した本作は、タイトルだけ見るとドタバタコメディみたいだけど、これがなかなか深くて、人生のいろいろなことを考えさせてくれるハートウォーミング・ムービーだった。なにかと屁理屈をこねては水を避ける頭でっかちの小鳥遊を、長谷川が素っぽいキャラでコミカルに体現。実際は泳げる長谷川の“カナヅチ”ぶりにも目を見張るが、そんな彼が静香の指導と、一緒に水泳を習っている妙齢の婦人たちの生活に根差した言葉によって次第に変わっていくところが面白い。台本と水泳監修のスタッフのおかげとは言え、綾瀬の教え方も実に上手くて、泳げない人も泳げそうって思えるぐらいの説得力がある。そして極めつけは、「水泳と人生は似ているけれど、決定的に違うところがある」という教え。『舟を編む』(13)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝いた渡辺謙作監督のユニークな映像表現も楽しくて、観終わった後には清々しい気分になっている。(ライター・イソガイマサト)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼