カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞を受賞、『PLAN 75』早川千絵監督にカンヌの地で独占インタビュー
フランス現地時間4月14日、第75回カンヌ国際映画祭の出品作発表会見。早川千絵監督は発表前日、『PLAN 75』の最終仕上げでパリ滞在中の最終日に、フランス人スタッフの大歓声で朗報を知ったという。「2ヶ月間一緒にやっていた人たちと喜び合えたので、最終日になんて出来過ぎなんだろうと。『うれしい』の前に『スタッフの労力が報われた、よかった』という気持ちが先にきました」と、早川監督は思い返す。その思いは、カメラドール特別表彰(カンヌ映画祭出品作品の中から新人監督に授けられる賞)を受賞してから、ますます大きくなっていることだろう。約12日間続いた映画祭も終盤に差し掛かり、「取材が落ち着いて、ようやく映画を観られる時間ができました」と言う早川監督に、パク・チャヌク監督作やダルデンヌ兄弟の作品上映スケジュールの合間に話を聞いた。
「回り道をしたことにも、すべてに意味があったと感じています」
近未来の日本。75歳以上の“後期高齢者”は、10万円の準備金をもらい人生を思いどおりに終えることができる政策「プラン75」が施行されている。一人暮らしのミチ(倍賞千恵子)と、プラン75の申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、フィリピンから来日し介護職に就くマリア(ステファニー・アリアン)、コールセンターで老人たちと“15分だけ”話し相手になる遥子(河合優実)。それぞれは、この政策をどう捉えるのだろうか。
2015年に香港で作られた『十年』をもとに、2018年に日本・台湾・タイでも国際共同プロジェクトが発足した。その日本編が『十年 Ten Years Japan』。是枝裕和が総合監修を務め、早川千絵監督はその中の1編「PLAN 75」を監督している。2014年にシネフォンダシオン(学生映画部門)でカンヌ映画祭を訪れた際に水野詠子プロデューサーと知り合ったことがきっかけで、企画に参加することになった。
「もともとは長編の企画でした。『十年Ten Years Japan』のお話をいただいた時に、10年後の日本を想定した社会的なテーマということで、まずは短編を作ってみようと思ったんです。長編では5人の群像劇を描くつもりだったので、そのうちの1人を選んで短編にしました」
欧米の映画業界では、短編映画で注目を集め、長編映画に移行する例は珍しくない。たとえば、デイミアン・チャゼルは同名短編映画をもとに『セッション』(14)の資金を集め、水野プロデューサーがパブリシストとして関わっていた『オー・ルーシー!』(17、平柳敦子監督)も、桃井かおり主演の短編映画がもとになっている。
「短編から入るのは、監督を目指すにはとてもいい形だと思います。長編の企画をプレゼンする時に、見せられる作品があると監督の世界観や描き方もわかってもらえるので、大きなアドバンテージになります。日本でも短編から長編映画を作るやり方は増えてきていると思います。映画監督になりたいと漠然と思っていても、なかなか道がわからないものですから」
早川監督が映画監督を目指したのは、13歳のころだったそう。初監督作をカンヌ映画祭の大舞台で披露した経験は、率直に言って「不思議」だという。「もちろんすごくうれしいです。物心がついたころから映画を作りたいと思っていて、それにも関わらず最初の一歩がなかなか踏み出せず、長い回り道をしてきました。でも、その回り道のすべてに意味があって、必要な道だったんだなと思っています。いま、ここカンヌで初監督作を上映できてよかった。水野プロデューサーと出会ったカンヌに8年後に戻ってこられて、『十年Ten Years Japan』で新人監督たちのやりたいことを尊重してくれる“総合監修”の是枝さんも一緒で、すべてのことに意味があった。人生って不思議だなあという気持ちです」