カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞を受賞、『PLAN 75』早川千絵監督にカンヌの地で独占インタビュー

インタビュー

カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞を受賞、『PLAN 75』早川千絵監督にカンヌの地で独占インタビュー

「倍賞さんの佇まいには、国境を超えて心を動かされました」

PLAN 75』は撮影を日本で行い、編集や音響などのポスプロをフランスで行った。個人の考え方を尊重するフランスの風潮は、映画を作るうえでとてもやりやすかったそうだ。「水野さんも海外での経験が豊富だし、フランスのプロデューサーは、脚本や編集の段階で意見をストレートに言ってくれるので、とてもやりやすかったです。フランスは議論の国。考え方、感じ方が違うのは当然のことで抵抗がない。映画に国境はないんだ、と思いました。映画を作るうえで言語はまったく問題にならなかったし、映画の中で描いている感情やストーリー、キャラクターへの理解も深く、フランスのスタッフと『これは人間の尊厳について、人生の美しさについての映画である』と、共有し合いながら作ることができ、この経験は大きな励みになりました。人間はみんな違うことが前提だけど、芸術や映画を通してわかり合うことができるんだと、この映画を作るなかで実感しました」

レッドカーペットに参列した『PLAN 75』メンバー
レッドカーペットに参列した『PLAN 75』メンバー [c]Kazuko WAKAYAMA

フランスのスタッフとも「なんてエレガントなんだろう、どうしたらこんなに優雅に年がとれるんだろうか」と感嘆していたのが、主人公ミチを演じた倍賞千恵子の佇まい。特に、日本語を理解しない海外の観客が目にする身のこなしと、耳にする声の印象は、大きな意味を持つ。世界の映画ファンが『ハウルの動く城』(04)でソフィーの声を演じた倍賞千恵子だと気づくのにも、時間はかからないだろう。「仕草や所作、自然に出てくる動きに人柄が現れてしまう。倍賞さんの所作についてはほとんど演出していません。ロッカーに対して『ありがとうございました』と言うのもすべて、倍賞さんが脚本から読み取り、自然に動いてくださったものです」

高齢を理由に仕事を解雇されたミチは、「プラン75」の申請を検討し始める
高齢を理由に仕事を解雇されたミチは、「プラン75」の申請を検討し始める[c] 2022『PLAN75』製作委員会 / Urban Factory / Fusee


水野プロデューサーの紹介で出会った撮影監督の浦田秀穂も、日本以外の作品での経験が豊富。人道的ではない政策が施行されていても平常に動く社会や、ミチの優雅な身のこなしを捉える浦田のカメラも早川監督の演出も、常に淡々としている。一歩外に出て眺めた日本は、その不気味な静けさに覆われているように見えることがある。「この題材をセンチメンタルにはしたくなかった」と、早川監督は語る。

「センチメンタルに演出して感情の起伏をつけるほうが、簡単に共感を得ることができます。(ヒロム役を演じた)磯村さんも、感傷的な演技をするのはわかりやすいけれど、感情を抑えた演技でどこまで伝えられるかのほうが難しいとおっしゃっていました。控えめな表現で伝えるのは難しいけれど、きっと観客のみなさんに深く響いていくだろうと信じていました」

 「プラン75」の申請窓口で働くヒロムを演じた磯村勇斗
「プラン75」の申請窓口で働くヒロムを演じた磯村勇斗[c] 2022『PLAN75』製作委員会 / Urban Factory / Fusee

その思いはカンヌ映画祭で『PLAN 75』の上映に立ち会った観客に届き、数十件受けたメディアの取材でも、伝わっていることを実感できたという。カメラドールの審査員長を務めたスペインの女優、ペドロ・アルモドバル作品でおなじみのロッシ・デ・パルマは「この映画は、いまの時代に必要な映画です」と評していた。早川監督が言うように、確かに“長い回り道”だったかもしれないが、コロナ禍を経たいまの世界にこそ、この映画が響く場所がある。そして、早川監督のなかにはすでに次回作の構想も生まれているようだ。「今作では社会的なテーマを描いたので、その反動でパーソナルな物語を作りたい。10歳くらいの子どもが主人公で、そこから見た世界を描きたいと思っています」。すでに、世界中が早川千絵監督の新作を心待ちにしている。

取材・文/平井伊都子

作品情報へ

関連作品

  • PLAN 75

    3.8
    989
    75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障し支援する制度「PLAN75」が施行された世界を描く
    Prime Video U-NEXT Hulu