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「コウノドリ」作者、鈴ノ木ユウが『ベイビー・ブローカー』に共鳴「生まれや育ちが不幸であっても、どんな命も奇跡」

インタビュー

「コウノドリ」作者、鈴ノ木ユウが『ベイビー・ブローカー』に共鳴「生まれや育ちが不幸であっても、どんな命も奇跡」

「ソヨンの葛藤や母親としての心の動きは、すごくリアル」

実際の産科医からあらゆる話を聞いてきた鈴ノ木にとって、赤ちゃんポストに赤ん坊を預けざるを得なかったソヨンの葛藤も「とてもリアルに感じるものだった」と胸の内を明かす。

ソヨンはサンヒョンとドンス、そして赤ちゃんのウソンと過ごすなかで、少しずつ変化していく
ソヨンはサンヒョンとドンス、そして赤ちゃんのウソンと過ごすなかで、少しずつ変化していく[c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

「出産って、周りのサポートがあったとしてもとても大変なものだと思うんです。それが一人で悩んでいたとしたら、どんなにつらかっただろうと。きっと心まで壊れてしまいますよね。例えば中学生や高校生が一人で悩んで、誰にも言えないままお腹が大きくなっていったとします。そういう時って、誰かに責められるととてもつらい。妊婦さんにとっては、困った時に“助けて”と言える場所が、絶対に必要。逃げ場所というか、どうしたらいいかわからない状況を非難されることなく、自分の居場所となるようなところ、そして赤ちゃんを預けられる場所が必要だと思います。本作の場合、ソヨンが赤ちゃんポストに預けに行けて本当によかったなと。だって赤ちゃんを育てられず、亡くなってしまったとしたら、なんの意味もないですから」と真摯にコメント。

続けて「ソヨンは赤ちゃんポストに置いた後、次の日にそこに戻ってくる。なぜだかわからないけれど、戻ってきてしまう。その葛藤や母親としての心の動きは、すごくリアルだなと思いました。実際にそういった状況になった時に、戻りたいと思った人ってたくさんいると思うんです。是枝監督はたくさん取材を重ねたんだろうなと感じました」と是枝監督の手腕に舌を巻く。鈴ノ木自身「コウノドリ」を描くうえでは、「同じように妊娠や出産、それに関わる経験をした人たちが、“そうそう、そうだよね”、“こういうことを知ってほしかった”と思えるようなものを目指したいと思っていました」とデリケートな問題を扱っているからこそ、リアリティを大切にしてきたという。

「コウノドリ」の1巻では、サクラが乳児院に預けられていく赤ちゃんを見つめながら、「これから人の何十倍もつらいことがあるかもしれない。でも幸せになることもできる。負けるなよ」とエールを送る場面があった。鈴ノ木は「本作の赤ちゃんを見てもそう思いますし、どの赤ちゃんを見てもいつもそんな気持ちになる」と告白。「赤ちゃんや、子どもには無限の可能性があるし、赤ちゃんには周りを変えていくようなパワーもある」と力強く語る。

「コウノドリ」
[c]鈴ノ木ユウ/講談社

「コウノドリ」
[c]鈴ノ木ユウ/講談社

「僕自身も子どもが生まれたことで、人生が180度変わりました。それまでは、ラーメン屋さんと牛丼屋さんで働いていて、しんどいな…など思ってしまっていたんですが、立ち会い出産をして、女の人ってすごいなと驚いて、子どもを抱っこした瞬間、自分の人生がまた新しくここから始まったという気持ちになりました。ソヨンが赤ちゃんポストに戻ってきたのも、赤ちゃんを産んで、きっとその尊さを実感したからだと思うんです。この映画のすべては、赤ちゃんの尊さから始まっている」としみじみ。

過酷な状況にありながらも、赤ちゃんの幸せをめぐって特別な絆が生まれていく登場人物を描く本作を通して鈴ノ木が実感したのは、「『生まれてきてよかったな』と思うことってたくさんあるものだ」ということ。


【写真を見る】『ベイビー・ブローカー』のメイキング風景。旅を通じて絆を築いていく登場人物たちさながらに、楽しそうなキャストたち
【写真を見る】『ベイビー・ブローカー』のメイキング風景。旅を通じて絆を築いていく登場人物たちさながらに、楽しそうなキャストたち[c] 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

「本作の登場人物のように、生きていると“辛いな”と感じることは誰しもが抱えていると思いますし、たとえ背負っているものが不幸であったとしても、出会いやきっかけさえあれば、人っていくらでも笑えるものなんだなと思うんです。劇中、洗車機で車を洗っている時に、(旅に途中から同伴する)少年、ヘジンが窓を開けてしまってみんなで大笑いするシーンがありましたよね。ああいったシーンもそうですが、本作では登場人物それぞれの笑顔が印象的で、それがとてもいいなと思いました」とにっこり。「人生においては、泣いたり傷ついたりすることの方がインパクトが大きいもの。僕も『あの原稿よかったですよ』と言われたことよりも、原稿がボツになったり、怒られたりする方がよく覚えていたりしますから(笑)。でも考えてみると、生まれてきてよかったなと思うことってたくさんあるもの。改めてそう感じることができて、好きな人に、“生まれてきてくれてありがとう”と言いたくなるし、言ってもらいたくなるような映画だなと思いました」と実感を込めながら語っていた。

取材・文/成田おり枝

■鈴ノ木ユウ
漫画家。2007年に「東京フォークマン/都会の月」で第52回ちばてつや賞に準入選、2010年には「えびチャーハン」で第57回ちばてつや賞に入選する。2011年、「おれ達のメロディ」をモーニング(講談社)に短期集中連載。同誌にて2013年から2020年にかけて産科医療を題材とする「コウノドリ」を連載し、TVドラマ化も果たす。現在は「コウノドリ〜新型コロナウイルス編」をモーニングで、司馬遼太郎原作「竜馬がゆく」を週刊文春で連載中。
・講談社「コウノドリ〜新型コロナウイルス篇」:https://comic-days.com/episode/3269754496893217392


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