稀代のヒットメイカー、ジェリー・ブラッカイマーが明かす『トップガン マーヴェリック』を36年ぶりに“帰還”させた道のり
「トム・クルーズは、映画作りを学びたくてしょうがない学生のよう」
当初、劇場公開は2019年が予定されていたが、製作の遅れにより2020年にずれ込む。しかし、ご存知の通り、それは世界的なパンデミックにより実現しなかった。「私は、とにかく劇場での公開にこだわっていました。コロナ禍の間は映画館が封鎖されていた時期もあり、多くの映画はインターネット配信によって陽の目を見ることになった。しかし『トップガン マーヴェリック』は、映画館で見てこその作品です。世界中の映画館が動き始めた2022年のいまこそが、公開にふさわしいタイミングだったと思います」。
映画を観れば、なぜブラッカイマーが劇場公開にこだわったかがよくわかる。とにかく、ドッグファイトのアクションシークエンスは迫力にあふれており、映画館の座席に座った観客はコクピットに座っているような気になるだろう。可能な限り、視界を埋める大きなスクリーンで見ることをお勧めしたい。
それにしても驚かされるのは、36年前の前作でハリウッドの最前線に躍りでたクルーズが、多少の浮き沈みがあったにせよ、高いレベルで安定し、現在もトップスターであり続けていることだ。「トムは最初の『トップガン』の頃から、すばらしい俳優だった」とブラッカイマーは振り返る。
「でも、撮影時はまだ21歳。彼はこの後、スタンリー・キューブリックやスティーヴン・スピルバーグをはじめとする名だたる監督たちと仕事をするようになり、その度に映画作りを学んでいきました。トムはスポンジのように、すべてを吸収するんです。まるで映画作りを学びたくてしょうがない学生のようにね。『トップガン マーヴェリック』には、彼の36年の映画界の経験が詰まっています。前作とは異なり、今回はプロデューサーを兼任し、脚本の段階からプロジェクトに深く関わっていますし、多くのスタッフと協力し合うことで、良い作品が生まれることも熟知している。『トップガン マーヴェリック』があるべき姿となったのは、トムのお陰と言っても過言ではないですね」。
「マーヴェリックがたどる道のりこそが肝。彼の変化から、なにかを感じ取ってほしい」
『トップガン マーヴェリック』では、“NATOの脅威を排除する”という名目で、マーヴェリックと教え子たちが核施設の破壊という困難なミッションに挑む。このストーリーは、現在の世界情勢と重ね合わせて見てしまうところだが、そこが物語の核ではないと、ブラッカイマーは語る。
「政治的な、または社会的なメッセージを感じてほしいとは思いません。それよりも、トップガン候補生たちの間の競争や、犠牲、友情、人間関係といったものがこの映画では重要であり、なにより、マーヴェリックがたどる道のりこそが肝です。映画の冒頭では、格納庫で一人過ごす彼の孤独な姿が描かれる。そこから、教官になって新たな仲間をつくり、恋をする感情も取り戻して、ラストでは最初とは違う人間になっている。そのような変化から、なにかを感じ取ってほしいですね」。
前作はスカイアクションであると同時にマーヴェリックの成長劇でもあったが、それは『トップガン マーヴェリック』でも変わらない。もはや若くはないし、年相応の落ち着きを身に付けてはいるが、無鉄砲な性格は相変わらずで、音速実験飛行では無茶をしたりもする。そんな彼の成長のドラマが、新たなトップガン候補生たちの成長と共にエモーショナルな要素として機能する。そのアツさは、やはり映画館の大きなスクリーンで体感してこそ、だ。
ちなみにブラッカイマーは「トップガン」のほかにも、「パイレーツ・オブ・カリビアン」「バッドボーイズ」「ナショナル・トレジャー」など、多くのブロックバスター級のヒットシリーズを放ってきたが、この秋にはエディ・マーフィと4度目のタッグを組み、「ビバリーヒルズ・コップ」シリーズの28年ぶりの新作の撮影に取りかかるという。こちらの動向にも、ぜひ注目したい。
取材・文/相馬 学