「怪盗クイーン」シリーズ原作者のはやみねかおる、20年目にして明かす制作秘話「なにを盗ませるかいつも悩みます」
「クイーンになにを盗ませるか、そこはいつも悩みます」
クイーンといえば「神が特別に与えた最高の美しさ」とも称されるような美貌を持つが、気まぐれでわがままな行動をとることも。そんな人間味あふれる点もチャーミングな魅力につながっている。
キャラクター造形について「よく子どもたちから『キャラクターはどうやって作るの?』と聞かれますが、2種類あります。僕の場合は、ストーリーやテーマがあり、そこからキャラクターが誕生する時と、最初にキャラクターが出てきて、『こういうやつならこういう舞台に置いてみたらどうだろう』と考えていくと、ストーリーが出きあがるというパターンがあります」ということで、クイーンは後者のようだ。
「クイーンの場合、なにを盗ませるかが決まると早いんですが、そこはいつも悩みます。というのも、僕は元教師なので、物を盗むのはよくないことだと思うし、そういう物語を子どもに読ませるのもどうかと思っていて。だから物語の方向性が決まるまでは、怖くて決められません」と意外な悩みを告白。
本作に登場する伝説の宝石「リンデンの薔薇」を盗ませようと思った理由について、はやみねは「さすがに20年前なので覚えてないんですが、確かこれは、『怪盗クイーン』シリーズの巻頭なので、怪盗らしくダイヤかなにかを盗まなくてはいけないなというきっかけだったような。でも、途中でクイーンが、『怪盗だからといってダイヤを盗むなんてチープなイメージだ』と、文句を言ってるんですよね(笑)。だからそれ以降は、美術品とかダイヤとかの価値があるものは盗んでいません」と当時を振り返ってくれた。
「大人は正しい戦争だと主張しますが、子どもにそんな理屈は関係ない」
そして、反戦のメッセージも色濃く反映されている本作。戦火で暗い表情をした子どもが、サーカスのピエロに会って笑顔を見せるというシーンや、雑誌「セ・シーマ」の女性記者である伊藤真里が、記者として1人でも多くの人に情報を公平に伝えることが大切だと持論を述べるシーンもある。それは図らずしも、世界情勢に揺れるいまの世相を反映した内容となっていて、深く心に刺さる。
「登場するのは内乱をしている国ですが、戦火において子どもが悲しんでいますよね。大人は戦争についていろいろと肉づけして、正しい戦争だとか主張しますが、子どもからすればそんな理屈は関係ないんです。子どもにとっては戦争で自分の家を壊されたり、身内が死んだりしたらただ悲しいだけで。それに対して大人はどうするんや?と、子どもが泣いとるぞと。そこを問題としてつきつけたかったです。原作は20年前に書いていますが、そこから20年経ってもこんな世の中なので、自分たちはなにをしてきたんやろと、恥ずかしくなります」。
華やかで力強いエンタテインメント作品でありながら、いまを生きる私たちに、大切なメッセージを伝えてくれる本作は、子どもから大人世代まで幅広く支持され、映画化を待ち望んでいた「怪盗クイーン」ファンからも、歓喜のコメントが続々と寄せられている。まだ観てない方は、ぜひ劇場に足を運んでほしい。
取材/編集部 文/山崎伸子