『エルヴィス』のファッションから読み解く、現代にも羽ばたき続ける“エルヴィス・プレスリー”という伝説の始まり
「Are you ready to fly Mr. Presley?(ミスター・プレスリー、世界へ羽ばたく準備はいいかい?)」エルヴィス・プレスリーに才能を見出し、長年マネージメントを務めたトム・パーカー大佐(劇中で演じるのはトム・ハンクス)と、同じくオースティン・バトラーに才能を見出して今作『エルヴィス』で主役に抜擢したバズ・ラーマン監督が、 “エルヴィス”にかけた言葉だ。
実際のところ、エルヴィスはセンセーションとなって羽ばたき、伝説となった。それは、ギネスを含む大記録の数々を打ち立てただけでなく、彼が様々な分野において先駆者であり、現代のアーティストにまで多大な影響を与えているからだ。彼の伝説を語るには、ブラック・ミュージックとホワイト・カントリーの音楽や、黒人分離政策などの歴史的な背景や文化は切り離せないのだが、それは映画で観てもらうことにして、最も重要な影響の一つは“ファッション”ではないだろうか。本記事では“キング・オブ・ロックンロール”と呼ばれたエルヴィスが、なぜキングであり、伝説となったのかを、ファッションの視点から読み解いていく。
レディー・ガガやブルーノ・マーズ、エルヴィスが後世のアーティストに与えた影響
「エルヴィスのファッションといえば?」というと、やはりカラフルなジャンプスーツはトップにランクインするのであろう。しかし、エルヴィスのファッションヒストリーを、一張羅のみで語るのはもったいない。劇中でも、ショービズ界の煌めきと恐さがひしめく激動の中で、「本当の自分を表現したい。自分がやっていて納得できることを追い求めたい」と、ミュージシャンとして音楽やダンスを追求するさまが描かれるが、それよりも本作で浮き彫りになるのは、ひとりの人間として葛藤する様子だ。そして成長を遂げ、ブレイクスルーを果たす時には必ず、アイコニックなファッションが同時に誕生するのが印象的でもある。
ジャンプスーツスタイルに代表される「ベガスのディナーショー時代」は、エルヴィスのファッション史でも後期のもので、その期の始まりは、クリスマスシーズンに放映された1968年の「エルヴィス:カムバック・スペシャル」だ。そのころのエルヴィスは、“オワコン”になりかけていて、もちろん自分のキャリアに満足していなかった。それを打ち破るため彼が選んだのは、黒のレザージャンプスーツ。間近にいる観客にまざまざと見せつけるように、身体のラインと動きの出るルックだ。単にかっこいいエルヴィスが戻ってきただけでなく、全身黒というルックが、クリスマスカラーの緑と赤をダサくみせるぐらい、最高にクールだったのである。そのカッコよさは、ミック・ジャガーやフレディ・マーキュリーなどのアーティストを経て、例えば「私は女だけれど、やっていることはロックンロールよ」とインタビューで答えていた、レディー・ガガへ受け継がれた。(「ポーカーフェイス」のPVを参照!)
ステージ衣装や専属スタイリストという言葉が生まれる前から、自らをスタイリングしていたエルヴィスは、貧しい出自を思い出させるという理由で、ブルーデニム(ジーンズ)を履くことは決してなかったという。そしてマネージャーである大佐の予言通り、人気者になったエルヴィスは富を手に入れ、貧しい子ども時代に憧れていた豪華な邸宅や車も所有した。そして、その成功を具現化したようなアクセサリーなどを通して、ファッションに取り入れていった。それが、現代までに幾多のヒップホッパーやラッパーに受け継がれていったBling-Bling(金ぴか)ルックである。ゴールドのチェーンネックレスやメッセージ入りのアクセサリー、ダイヤモンドなどの宝石を大きくあしらったリングなどがその代表で、その創始者であるエルヴィスは、「TCB」(Take Care of Businessの略。“お前らはいろいろ言ってくるけど、やることはやってるぜ”の意味)と表したアクセサリーを好んでいたことが有名だ。
そのBling-Blingや、ひだのあるワイドパンツ、特徴的な襟のシャツなどに代表される、50年代のロカビリー・ファッションをモダンに体現するのが、現代ではブルーノ・マーズだろう。(「アップタウン・ファンク」のPVを参照!)“ファッションは、ステートメント(意思表明)であり、本人の想いや人生を反映させたものが、最も説得力をもって人を魅了する”ということが、改めて感じられる。