「私たちはまだ変わることができる」森林火災の脅威を描くアンソロジー「FIRES 〜オーストラリアの黒い夏〜」に込められたメッセージ
2019年秋から2020年上旬にかけて、およそ半年間続いたオーストラリアでの大規模森林火災。犠牲者33人、30億頭以上の野生生物が犠牲になり、3000戸以上の住宅が焼失する甚大な被害をもたらしたこの惨事を経験した人々の実話からインスパイアを受けたドラマ「FIRES 〜オーストラリアの黒い夏〜」が、現在スターチャンネルEXで独占配信中。本稿では、クリエイター陣が作品に込めた想いを紹介しながら、本作の見どころを探っていきたい。
2021年9月にオーストラリア国営放送ABCで初放送され、オーストラリア・アカデミー賞では10部門にノミネート。テレビ部門の作品賞、音響賞、撮影賞の3冠に輝いた本作は、全6話構成のアンソロジーシリーズ。キャストには『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(19)で四姉妹の三女を演じたエリザ・スカンレンや、『アバター』(09)のサム・ワーシントン、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのミランダ・オットーら、オーストラリア出身の豪華俳優たちが顔をそろえている。
“リアルな描写”と“人の心に寄り添った脚本”で、未曾有の惨事に迫る
「この惨事のすべてか、少なくとも人々が経験したことの一部を伝えたかった」と語るのは、製作総指揮と脚本を務めたトニー・エアーズだ。長編監督デビュー作『Walking on Water』(02)で第52回ベルリン国際映画祭テディ賞を受賞し、近年はオーストラリアで数々の人気ドラマシリーズを手掛けるエアーズは「ドラマを通じてこのトラウマ的経験を周りの人と話し、乗り越える機会になれば」と、当時なにもできなかった自分に無力さを感じた経験から制作を決意したことを明かす。
そのエアーズと共に製作総指揮・脚本共同執筆者を務めたのは、エミー賞受賞ドラマ「Safe Harbour」を手掛けたベリンダ・チャイコ。「自宅の裏の丘陵地帯が何週間も燃えていた光景は、いまも忘れられません」と語るチャイコは、甚大な被害を受けたニューサウスウェールズ州北部の在住。当時、家を失った多くの友人たちに住む場所を提供していたことを振り返りながら、本作に関わることになった経緯を語る。
「トニー・エアーズがこのアンソロジーのオリジナルアイデアを持ってきて、興味はないかと私に打診してきました。私はすぐに引き受けることを決めました。なぜならこの大規模森林火災はオーストラリアにとって重要な分岐点になった出来事。なにかしらの形にしておくことが重要であると感じていたからです」。そうしてエアーズとチャイコは“リアルな描写”と“人々の心に寄り添った脚本”を通し、この惨事のありのままの光景を伝えることに注力したという。
制作にあたっては、現存するニュース記事から火災を乗り越えた人々の物語を収集したり、聞き取り調査はもちろんのこと実際に火災の被害を受けた地域に調査員を派遣するなど徹底的に行われた。さらにこの2019年の出来事だけではなく、過去に起きた大規模森林火災を体験した人々への聞き取り調査も敢行。そしてボランティアの消防団員や国内の消防隊にも働きかけ、元消防隊員である火災コンサルタントとも連携して物語のリアリティを追求していった。