「私たちはまだ変わることができる」森林火災の脅威を描くアンソロジー「FIRES 〜オーストラリアの黒い夏〜」に込められたメッセージ

コラム

「私たちはまだ変わることができる」森林火災の脅威を描くアンソロジー「FIRES 〜オーストラリアの黒い夏〜」に込められたメッセージ

「作品のテーマは“コミュニティ”の重要性」

森林火災によって奪われた、市井の人々の日常を描く
森林火災によって奪われた、市井の人々の日常を描く[c] 2021 Tony Ayres Productions Pty Ltd, Australian Broadcasting Corporation and Screen Australia. ALL RIGHTS RESERVED.

6つのエピソードはそれぞれ直接的なつながりはないものの、2019年からの時系列と被害の広がりを軸にしながら関連しあい、最終話である第6話で総括するような構成になっている。チャイコは「このドラマを作り始めた時から、あの大規模森林火災の際の多種多様な体験を描きたいと考えていました」と語る。「火災と戦うのではなく、これからもそこで生きていくのか、そこを後にするのかという決断をする市井の人々の物語です。“リアルさ”と“実体感”こそが、このドラマのキャッチワードです」。

スカンレンが主人公を演じる第1話「燃え盛る」は、火災現場に出動する若い2人のボランティア消防団員の姿が描かれる。ここでは実際に火災の現場で多くのボランティア消防団員たちが体験した現実が反映されているという。火災が原因で土地を失った酪農家の夫婦を描いた第2話「絶対絶命」では被災者の損失の大きさを。避難勧告を無視して自宅に留まる住人と、離れる住人とを描いた第3話「決断」では現地の住民たちに火災がどのように見えていたかを物語る。

すべての物語が行き着くのは、コロナ禍にも通じる“人間同士のつながり”
すべての物語が行き着くのは、コロナ禍にも通じる“人間同士のつながり”[c] 2021 Tony Ayres Productions Pty Ltd, Australian Broadcasting Corporation and Screen Australia. ALL RIGHTS RESERVED.

そして互いに助け合う人々を描く第4話「シェルターのクリスマス」、同性カップルを主人公に災害によって日常が奪われる様を描く第5話「自力」。最終話「失われた夏」では問題を抱えながらも自分自身を見つめ直す主人公を通して、パニック状態のなかで生まれる“人間同士のつながり”に焦点が当てられていく。

「作品のテーマはひとりひとりが生きていくなかでのコミュニティの重要性です。現在のパンデミックや火災が起きた夏の間において、これは特に重要なメッセージなるのです」と、エアーズは本作を製作した意義を力強く語った。


近年大きく取り沙汰される環境問題にも警鐘を鳴らす
近年大きく取り沙汰される環境問題にも警鐘を鳴らす[c] 2021 Tony Ayres Productions Pty Ltd, Australian Broadcasting Corporation and Screen Australia. ALL RIGHTS RESERVED.

一方でチャイコは、この森林火災によって深刻な環境破壊がもたらされたことを危惧する。「地球温暖化によって激しい森林火災が起き、それによって放出された二酸化炭素がさらなる地球温暖化を促してしまうという危機的な循環に陥っていると感じます」。そして「私たちはまだ変わることができる。そして、世界で起こっていることに影響を及ぼすことができるのです」と、この作品が人々の意識を変えるきっかけになることに願いを込めた。

「FIRES 〜オーストラリアの黒い夏〜」は、8月30日(火)よりBS10 スターチャンネルでも放送開始。リアルな火災シーンと胸を打つヒューマンドラマを通して、日本でも決して他人事ではない“自然の脅威”について思いを巡らせてみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

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