“ありそう”な怖さに胸がざわつく…「何かおかしい」「変な家」で注目される雨穴の作家性
映画化も決定!ノンフィクション風で描く「変な家」
2021年に出版された雨穴の代表作の一つ「変な家」は、2020年に「【不動産ミステリー】変な家」としてアップされたWeb記事が基になっている小説。事故物件でもなく、そして怪奇現象が起きるわけでもない、しかし、間取りを見るといくつかの違和感がある“変な家”の真相に雨穴が迫っていくという物語で、「台所にある謎の空間」や「子ども部屋に至るまでの導線の不自然さ」などから推測できるその家の秘密が語られた。
そして、このWeb記事を“序章”としつつ、全4章で“変な家”の真実にさらに踏み込んでいくのが書籍版「変な家」だ。すでに本作は映画化も決定しており、この独特な世界観がどのようにスクリーンで表現されるのかも非常に気になるところ。
ポップでかわいい(?)面も。多才な雨穴の魅力とは
オカルト創作で人気を集める雨穴だが、実はポップな記事も多い。例えば、「食品のパッケージ写真をそのまま再現してみた」という記事では、タイトル通り、商品パッケージの再現料理に雨穴自身がチャレンジする内容。彼は定期的にお料理記事を作っているが、どれも完成度が高く、驚かされる。また、うさぎのことを考えない日はないというほどのうさぎ好きで、彼の家の窓にはうさぎのイラストが置かれている。実はお料理上手だったり、かわいらしい一面もあったり、ただの黒ずくめの怖い人ではないのだ。
一方、やはり雨穴の一番の持ち味であるオカルト創作には、ある特徴がある。彼の記事の多くは、“ノンフィクション風”で書かれており、雨穴が実際にその話を見聞きしている、という体で話が進んでいく。一方、掲載媒体である「オモコロ」は、漫画や小説といった創作も多いが、記事広告や取材モノ、実践記事といったノンフィクション記事が多いのも特徴。雨穴はオカルト記事以外にも、実際に料理や工作をする記事も多いため、媒体そのものの傾向と相まって、なにも知らずに読み始めるとノンフィクションとしてすんなり入ってきて、レポート記事かな?と読み進めるうちに、だんだんと雨穴ワールドにはまっていってしまう。
雨穴は以前、着想を得た作品として『犬神家の一族』(76)、『八つ墓村』(96)を挙げつつ、閉鎖的な村や一族の風習といったものに対し、「『実際にこういう世界で一生を終えた人たちが日本にはたくさんいるんだろうな』と、考えさせられました」と語っている。こう雨穴が答えた通り、「実際に真相を知らないというだけで、もしかしたら絶対にフィクションである、とは言い切れないのかも」と思わされるのが彼の作品の魅力ではないだろうか。
「何かおかしい」「変な家」をはじめ、斬新な形で作品を生みだし続ける雨穴。オカルト系創作では独自のセンスで強烈な印象を与えてくる彼だが、実は作曲を行ったり、自作の歌にあわせてダンスを作ったりと、とっつきやすい(?)一面もある。そんな彼自身の魅力にも心をつかまれつつ、今後の作品にも注目していきたい。
文/サンクレイオ翼
■「何かおかしい」
・Paraviで全話配信中、テレビ東京ドラマチャンネル(YouTube)で前半3話配信中