アカデミー賞監督が『カメラを止めるな!』をリメイクした理由とは?「ぜひ監督させてほしいと願いでた」

インタビュー

アカデミー賞監督が『カメラを止めるな!』をリメイクした理由とは?「ぜひ監督させてほしいと願いでた」

低予算のインディーズ映画ながら社会現象を巻き起こし、興行収入31億円超えのメガヒットとなった上田慎一郎監督作『カメラを止めるな!』(17)。本作をリメイクしたフランス映画『キャメラを止めるな!』(7月15日公開)を手掛けたのは、第85回アカデミー賞で5冠に輝いた『アーティスト』(11)のミシェル・アザナヴィシウス監督だ。「リメイク映画ながら、とてもパーソナルな映画になりました」と語る監督に、オリジナル版との出会いから撮影秘話までを聞いた。

『カメラを止めるな!』は、37分間ワンカットのゾンビサバイバル映画を撮影中に本物のゾンビが出現するという前半が展開されたあと、後半でその撮影舞台裏が明かされるというトリッキーな構成が映画ファンをうならせた。リメイク版である『キャメラを止めるな!』では、フランス人監督レミー(ロマン・デュリス)のもとに、日本で大ヒットしたゾンビ映画『ONE CUT OF THE DEAD』(『カメラを止めるな!』の英題)をカメラ1台でワンカット撮影し、生放送してほしいといった無茶なオファーが入る。

「『カメラを止めるな!』とは逆の物語を考えていたんです」

『カメラを止めるな!』をリメイクすることになったのは、偶然の出会いがきっかけだったというアザナヴィシウス監督。「僕は長年、映画の現場を舞台にした物語を撮ってみたいと思っていて、そのアイディア出しを始めていました。そのころ、まだ『カメラを止めるな!』の存在は知らなかったのですが、僕も主人公が監督で、キャストやスタッフ間の人間関係を描き、物語の最後にワンカットの長回しをして、すべての物語が解決するといった、いわば『カメラを止めるな!』とは逆の構造となる物語を考えていたんです」。

そんななか、たまたま本作のプロデューサーであるヴィンセント・マラヴァルと別件で話す機会があり、お互いの近況を報告し合うなかで、マラヴァルが『カメラを止めるな!』のリメイク権を取得したという話を耳にしたそうだ。

主人公である監督のレミー役にロマン・デュリス
主人公である監督のレミー役にロマン・デュリス[c]2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

「その時、偶然にもその映画が、僕の考えていた映画と同じように、映画の制作現場を舞台にした作品だと聞きました。そうしたらヴィンセントから『よかったらこの映画を観てほしい』と視聴リンクが送られてきたんです。それで観てみたら『傑作だ!』と感じ、もしリメイクをするのであれば、ぜひ自分に監督をさせてほしいと願いでたんです」。

「竹原さんなら、物語に信憑性を与えてくれると思った」

オリジナル版とリメイク版の一番の大きな違いは、キャストの豪華さだろう。『カメラを止めるな!』は、もともと低予算のインディーズ映画で、当時はほぼ無名のスタッフ、キャストによる手弁当の映画だったが、リメイク版は、主人公である監督のレミー役を『真夜中のピアニスト』(05)などの人気俳優、デュリスが、彼の妻ナディア役を、アザナヴィシウス監督の妻で、『アーティスト』ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたベレニス・ベジョなど、人気と実力を兼ね備えた俳優陣がキャスティングされている。

特筆すべき点は、日本のプロデューサー、マダム・マツダ役を、オリジナル版でも個性派プロデューサー役を演じた竹原芳子が務めるというキャスティングの妙だ。

竹原の起用については「彼女が醸し出す非現実さみたいなものが本作の作風に合うなと思いました。なぜなら、彼女がワンカット長回しでゾンビ映画を生配信するという、突拍子もないリクエストをしてくるわけでしょ。普通だったら無謀すぎてあり得ないことですが、『なるほど、彼女なら言いかねない』と、物語に信憑性を与えてくれると思ったんです」と、その狙いを明かした。

【写真を見る】竹原芳子、リメイク版『カメ止め』でも個性爆発!日本のプロデューサー、マダム・マツダ役を熱演
【写真を見る】竹原芳子、リメイク版『カメ止め』でも個性爆発!日本のプロデューサー、マダム・マツダ役を熱演[c]2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION

「リメイクするにあたり、極力オリジナルからの変更はしたくなかったんです」という監督の言うとおり、衣装やシチュエーションなどは、ほぼオリジナル版を踏襲している。「ただ1つ、オリジナル版と大きく違う点は、種明かしの受け止め方が変わってしまうこと。そこはもうひとひねり考えなくていけないと思いました」というアザナヴィシウス監督。

「オリジナル版では、当時無名の監督、役者さんによるインディーズ映画だったということで、最初のワンカットで撮るゾンビ映画が、無茶な展開のB級映画だったとしても、すんなり『そういうレベルの映画なんだ』と信じて観続けることができます。そして、サプライズが明かされて、結果的に映画としてすごくスマートなことをやっていたんだ!と気づくというオチです。でも、リメイク版の場合は、キャストがすでに著名な役者たちなので、同じようなサプライズは望めませんでした」。確かにデュリスら演技派俳優が、ゾンビ映画で不可思議な演技をしている時点で、なにかからくりがあるのではないか?と、最初から勘ぐってしまうのは致し方ない。

ナディア役を演じたベレニス・ベジョ(左)。劇中映画の主演女優を演じたマチルダ・ルッツ(右)は、ハリウッド版「リング」の主演も務めている
ナディア役を演じたベレニス・ベジョ(左)。劇中映画の主演女優を演じたマチルダ・ルッツ(右)は、ハリウッド版「リング」の主演も務めている[c]2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINÉMA - GAGA CORPORATION


そこでマダム・マツダが、原作の変更を一切拒否するという無理難題を押し付ける案を思いついたのだそう。「役者が日本の役名のままで演じていくという設定にました。竹原さんの無茶ぶりで、フランス側のプロデューサーが困惑する姿も笑いにつながります」。

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