シングルマザーの奮闘、低能力な超能力者の悩み…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」新鋭監督作から得た現代を生き抜くヒント
今年で19回目の開催を迎える「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」。いち早くデジタルシネマにフォーカスした国際コンペティション映画祭として知られる本映画祭では、『雪の轍』(14)でカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督や、「孤狼の血」シリーズの白石和彌監督など、次世代を担う才能が次々と輩出されてきた。“若手映像クリエイターの登竜門”として知られている。
3年ぶりのスクリーン上映が復活となる今年は、99の国と地域から応募があった775作品のなかから、厳正なる審査の末に選出された10作品を上映する「国際コンペティション」部門。長編・短編あわせて219本(長編59本、短編160本)の応募のなかから選出された14作品(長編6本、短編8本)を上映する「国内コンペティション」部門など、多岐にわたるラインナップが用意されており、ここからまた新たな逸材が世に出ること間違いなしだ。
そこで本稿では、国際コンペティション部門と国内コンペティション部門から特に注目すべき2作品ずつ、計4本をピックアップしてご紹介。製作国もジャンルも異なるこの4作品に共通しているのは、“自分の生き方”を模索する主人公の姿が描かれていること。現状への不満や不安、誰かから向けられるプレッシャーに、誰かに向けてしまう期待。登場人物と自分自身を思わず重ね合わせたくなる共感必至のストーリーから、きっと混沌とした現代を生き抜くためのヒントが得られることだろう。
気丈なシングルマザーと自堕落な息子の生き方の交差『彼女の生きる道』
まず紹介するのは、国際コンペティションに出品されているフランス映画『彼女の生きる道』。フランスのアカデミー賞として知られるセザール賞で最優秀短編賞を受賞したセシル・デュクロック監督がメガホンをとり、第94回アカデミー賞作品賞受賞作『コーダ あいのうた』(21)のオリジナルである『エール!』(14)を手掛けたステファニー・バーマンがプロデュースを務めた、気丈な女性の生き様を描く物語だ。
主人公のマリーはシングルマザーで、娼婦の仕事に誇りを持っている。ある時息子のアドリアンが学校を退学となってしまうのだが、彼の幸せを願うマリーは料理が好きなアドリアンを国内でもトップクラスの調理師学校に入学させようとする。しかし学費はあまりにも高額で、なんとかそれを工面するためにマリーは妖しいクラブで働き始める。
息子のためにすべてを差しだすことを誓う母親としての覚悟。自堕落な息子になんとしても望む道を歩んでほしいと期待をかけながら、身を呈してその後押しをしていく。“誰かのために”という想いが、彼女自身をさらに強くしていく。マリーの生き様を追う物語ではあるが、同時に息子のアドリアンが選ぶ生きる道も見逃せない。母子2人の“生きる道”が交差することで、それぞれの人生の可能性は拡がるのである。
世界の終わりを舞台に映しだされる三姉妹の“家族の形”『とおいらいめい』
国際コンペティション部門からもう1本、日本映画の『とおいらいめい』を紹介したい。物語の舞台は海を望む小さな町。そこで暮らす音の父親が亡くなり、異母姉の絢音と花音が帰ってくるところから始まる。初めて一緒に暮らす三姉妹のぎこちない共同生活と、周囲の人々との人間模様。穏やかな日常を切り取るヒューマンドラマのように見えて、実は彗星の衝突が近づき人類が滅亡する日が迫っているという背景が、美しい映像と相まって映画に思わぬ深みを与える。
世界の終わりが近づくというマクロの世界観のなかで、少しずつ始まろうとする家族というミクロのつながり。三姉妹を演じた高石あかりと吹越ともみ、田中美晴が見せる限りなく自然体なやりとりのなかで時折、突発的に出現する不安感。いくつもの対比となる要素の見事なまでのアンバランスさが、この“限られた時間のなかでなにができるのか”という焦燥感を時に異物のように、そしてまた特殊ではない普遍的なもののように見せる。物語の先にあるなにか底知れぬ部分に思いを馳せたくなる1本だ。
※高石あかりの「高」ははしご高が正式表記
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■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
日程:【スクリーン上映】7月16日(土)~7月24日(日)、【オンライン配信】7月21日(水)~7月27日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:http://www.skipcity-dcf.jp/