シングルマザーの奮闘、低能力な超能力者の悩み…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」新鋭監督作から得た現代を生き抜くヒント

コラム

シングルマザーの奮闘、低能力な超能力者の悩み…「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」新鋭監督作から得た現代を生き抜くヒント

“低能力”な超能力者に不安と苦悩を共感『ブルーカラーエスパーズ』

続いては、国内コンペティション部門から2作品。『ブルーカラーエスパーズ』は、“低能力”な超能力者である主人公の青年が、ある任務の最中に瞬間記憶能力を持つ高校生の少年と出会い共に行動することになるという、自主製作映画らしい発想の自由さを感じさせるSFドラマだ。

超能力者が直面する、普通の人にも起こりうる苦悩を描く『ブルーカラーエスパーズ』
超能力者が直面する、普通の人にも起こりうる苦悩を描く『ブルーカラーエスパーズ』[c]daikikoboayashi2022

冒頭の喫煙所での何気ない会話からも示されるとおり、自分よりも年下の人間が能力的にも、立場的にも優っていることによって生じるフラストレーションが、この映画の物語を転がしていく。年齢と共に高まる将来の不安が、誰かの存在によって否応なしに突き動かされてしまう苦悩。そんな現実的な状況が、“超能力者=ヒーロー”という映画的な人物設定を通して描かれるというのは実にユニークだ。能力があること、普通であること。ラストシーンに訪れる一瞬の間は、正解のない生き方を肯定してくれる。

擬似夫婦から新たな気持ちと自身へのアプローチ『ダブル・ライフ』

レンタル夫と疑似夫婦生活を送る女性を描く『ダブル・ライフ』
レンタル夫と疑似夫婦生活を送る女性を描く『ダブル・ライフ』

実の夫との関係に不満を抱きながら、たまたま借りた“レンタル夫”に魅せられ擬似夫婦生活を始める女性を主人公にした『ダブル・ライフ』もまた、誰かの存在によって人生を、あるいは自分自身を見つめる者の物語だ。

相手の気持ちを感じ、自分の気持ちを伝える。他人に認められ、満たされたいという他者とのつながり。そしてその果てに待つ、自分自身と向き合うことの難しさ。身体的表現によって紡がれる人物の微細な心理描写は、映画の持つ引力を高めて映画と観客を一体化させる。


『ダブル・ライフ』のメガホンをとったのは万田邦敏の元で演出を学んだ余園園監督
『ダブル・ライフ』のメガホンをとったのは万田邦敏の元で演出を学んだ余園園監督

映画や表現にいくつもの形が存在しているように、人の生き方もまた千差万別だ。誰にも決めることはできないし、そこに決まったかたちもない。ここで取り上げた4作品の主人公たちの生き様を見てなにを感じるのかもまた人それぞれであろう。それでもひとつだけ確かなことがあるとするならば、不安も不満もプレッシャーも期待もなんらかのきっかけや可能性につながるものであり、一人で生きるも誰かと生きるも選ぶことができる。そうした選択肢こそ、いまの社会に求められるものであろう。

文/久保田 和馬


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■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
日程:【スクリーン上映】7月16日(土)~7月24日(日)、【オンライン配信】7月21日(水)~7月27日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:http://www.skipcity-dcf.jp/
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