アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第11回 ~新メンバー加入!その4~
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第11回は正義を守る「ピンキー☆キャッチ」の新メンバーのスカウト活動で、3人目の候補者・鏑木の邸宅を訪問する。
ピンキー☆キャッチ 第11回
外階段を上がると手入れの行き届いた洋風の庭が広がっていた。敷地に入ると横幅だけでなく、奥行きも深い邸宅である事が分かる。ちょっとした区営の施設ほどの規模はあるだろう。黒く大きな玄関を入ると、玄関と広いリビングがダイレクトに繋がっていた。いわゆるデザイナー建築で、南側は大きなガラス張り、2階に向けて吹き抜けの天井ではシーリングファンが回っている。上品に色の抜けたレザーソファを案内され、三人は並んで座る形となった。
「キャビネットはドイツ製のヴィンテージですね。重厚感があるなあ」
コーヒーを運んでくれる鏑木に吉崎が尋ねた。
「家具調度品は親父の趣味ですよ。両親はどちらも亡くなっちゃいましたがね。輸入業なんかもやってましたんで、多国籍が混在してまして」
一つの質問で様々な情報が入ってきた。狙ったのかどうかは不明だが流石だ。続いて笹井がコーヒーを熱そうに啜るとおもむろに立ち上がった。
「凄い広さだなあ・・ここを継がれたんですか。相続税なんてめっぽう取られたでしょう!?」
「そりゃもう驚くくらいに。だけど親父が上手いこと僕名義の現金も残してくれていたので。僕なんぞ何も出来ない一人っ子でしたからね、持て余してますよ」
「へええ。だいぶ手広く事業展開なさってたんですなあ」
「輸入業で蓄えができた後は不動産に移行しまして。いい時期に引き上げた口で、まあバブル崩壊の逃げ切り組ですよ」
とにかく親が金持ちだったという事だ。今はその資産を運用し、持ちビルや駐車場、各種物件等々のテナント賃料で食い繋いでいると話してくれた。
「管理も依頼しちゃってるし、時間だけが膨大に余ってましてねえ・・。他人には悠々自適だって羨ましがられますが、暇っていうのがこんなに怖いとは・・。ゴルフも釣りも忙しい合間に行くから楽しいんであって、暇潰しでやってるとあっという間に飽きちゃうもんですよ」
自嘲気味に笑い、鏑木はコーヒーを啜った。金持ちの嫌味でも何でもなく、物悲しげな表情が本音であることを伝えてきた。
「いやあすみません、初対面の方にこんな愚痴言っても仕方ないですよね。そうだそうだ、何かお話があるんですよね。そんなこんなの毎日ですから、突然のお客さんが嬉しくってつい。失礼しました」
「いいえ、こちらこそ突然お邪魔してしまいまして。では詳しくはこちらの都築の方からご説明させて頂きます。都築君、じゃあ」
「あ、はい。ええとですね・・・・」
鏑木は時に驚き、時に興味深そうにうんうんと頷きながら説明に聞き入っていた。怪人の事。ピンキーの正体や、活動に限界が生じ、サブメンバーが必要となった事。そして秘密裏に体質検査をしていた件について。自分自身が防衛戦隊となる依頼を受けていると知った鏑木は目を大きく見開き、小さく咳を2、3度したかと思うと突然ボロボロと涙を流し始めた。
「あ、、えっ、、? 鏑木さん大丈夫ですか?」
都築と笹井はもちろん、さすがの吉崎も突然の涙に狼狽を隠せなかった。
「すみません、、、いやあごめんなさいお恥ずかしい、、、ちょっと思うところがありましてね、胸がいっぱいになっちゃいました。そうだ、ちょっとお見せしますね。こちらへどうぞ」
鏑木は三人を隣の部屋へと案内した。15畳ほどの和室だったが、大きなガラスのショーケースが壁沿いいっぱいに並んでいた。その中には年代物と見られる、ヒーロー戦隊のフィギュアがずらりと飾られていた。
「うわあ懐かしいなあ!これ当時の物ですよね!?僕は鏑木さんと同い年だもんで、ドンピシャな物ばっかりですよ、凄いなあ!!」
「ほう、箱付きまで。今じゃこれは相当なプレミアでしょうね」
「僕は世代からは少しズレますけど、、見事なコレクションですね。博物館みたいだなあ」
おべっかでも何でもなく、素直に感動して見入ってしまった。塗装が剥げたソフトビニール製の人形や超合金の質感は、いつだって男子のテンションを一気に天井まで引き上げてくる。
「いい歳してお恥ずかしいんですがね。この中のほとんどが子供の頃から大切にしていたおもちゃ達なんです。中には最近になってオークションで買い求めたものもありますが」
ガラスケースの縁を撫でながら、鏑木は語り始めた。
「先程もお話しましたが、僕の両親は仕事人間でした。一代で会社を興し、たくさんの従業員を抱えました。母も父を懸命にバックアップして、家には僕と祖母だけの日がほとんどだったんです。その分オモチャは自由に買い与えられましてね。テレビで観たヒーロー戦隊にどっぷり浸かったんです。コイツらが憧れであり、何よりの親友だったんですよ。孤独な毎日の中で自分もヒーローになったつもりで、庭で木の枝を刀がわりにして一日中ブンブン振り回していました。 ・・・その後も何不自由なく育ちはしましたが、大人になってから自問自答の毎日だったんです。俺は何者なのかなあって。何が出来るんだろう。何も出来ない人間だなぁって・・・」
何かを吹っ切ったかのように鏑木はニカっと笑った。
「そこへですよ!そこへさっきのお話でしょう!!? 子供の頃に棒っきれを振り回してたあの頃と繋がって・・。お前大きくなったらヒーローになれるんだぞって・・!俺は誰かを・・・誰かを救うヒーローになれるんだ!って・・・・。 すみません、お話遮ってしまって。 僕なんかがお役に立てるのであれば、よろしくお願いいたします」
鏑木は、若作りした服装に似合わぬ深々とした礼をした。吉崎と都築も身を正して礼を返した。笹井だけが後ろを振り返り、しゃくり上げながら泣いていた。
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。