アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第6回 ~鈴香のスキャンダル~|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第6回 ~鈴香のスキャンダル~

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第6回 ~鈴香のスキャンダル~

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第6回。

 ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」
ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」撮影/宮川朋久

ピンキー☆キャッチ 第6回

「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ~んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!

都築は悩んでいた。鈴香が写真週刊誌にデート写真をすっぱ抜かれたのだ。

昼間、阿佐ヶ谷の自宅で事務仕事をこなしていると携帯に見知らぬ番号から着信があり、週刊のゴシップ誌であることを告げられた。
こうした芸能関係のスクープは、記事になる前に一度出版社から所属事務所に連絡が入る。『御社所属の◯◯さんが◯◯している写真を押さえたのですが、お認めになりますか?』という旨の連絡だ。出版社もそれなりの裏付けを取った上での確認である。『知りません』とシラを切れば良さそうなものだが、そうなると第二波・第三波と更にダメージのデカいスクープ記事を載せられる可能性がある。
早めに認めてダメージを最小限に抑えるか、はたまた雑誌社がカマをかけてきているだけで、認めない方が得策となるのか。芸能事務所としては難しい駆け引きとなるのだ。

編集者を名乗る中年男性から告げられたのは、男性アイドルグループ『パープル・セブン』の東野祐也と鈴香の手繋ぎデート写真を押さえたとの報告であった。パープル・セブンは大手事務所に所属する七人組アイドルユニットだ。幅広い年齢層に人気があり、熱狂的なファンの暴走行為が時折話題に上がる。

「ご本人・御社共にお認めになりますか?」

そう問われるも、都築自身、寝耳に水で認めようもない。混乱する頭で「確認の上、折り返します」と答えるのが精一杯であった。とりあえず本人に話を聞かなくてはならない。
放課後の学校に車を横付けし、メールで鈴香を呼び付けると、七海と理乃も付いてきた。どうやら全員事情を知っている雰囲気だ。

「何があかんの⁉︎デートしたら犯罪なん⁉︎」

理乃が語気を荒げ、当の本人である鈴香は項垂れ、七海がその背中をさする。美しいくらいに三人集まった女子達の構図だ。

「悪い悪くないの前に事情を聞きたいんだよ」

「いちいち言わなあかんのおかしくない⁉︎こそこそ隠し撮りする方が絶対に悪い!鈴香泣いてるやんか‼︎」
「普通とは立場が違うだろ。まずアイドルとしての責任。そして俺はみんなを親御さんから預かっている上で、何があったのかを知る責任がある」
「でも都築さん。“普通とは違う”って、私達元々好きでこの立場になったんじゃないですよ」

七海がいつものように落ち着いた論調で攻めてくる。だが今日はここで引くわけにはいかない。

「お前達な。何かっていうと二言目にはそう言うけれども、仕事内容は全てきちんと事情を説明した上でそちらも承諾したはずだろう。給料形態だってちゃんと意見を汲んだ。その給料で、俺との約束を破っていまだに高価なブランド品を買っているだろう。知ってるぞ」

三人がピクっと反応し、キラリと光るネックレスや指輪を隠した。

「給料を受け取っているのはプロの証だ。そういった意味で自己選択をした上で、プロとしての責任が生じているんだ。享受するものはしておいて、立場が悪くなると不本意だった様な言い回しは都合が良すぎるんじゃないか?」
今のは効いた。二人とも綺麗にぐぬぬといった表情だ。すると鈴香が顔を起こし、ポツリポツリと話し始めた。

「先月の『ミュージックパーティー』の収録で…パープルの隣だったの。席が…。そこで私『ヒョッ』って声出しちゃって・・・」

それから三度聞き直してようやく全貌が掴めてきた。先月収録した音楽番組の雛壇で、二人は隣り合った。祐也が所属しているアイドルグループの事は以前から認識はしていたものの、7名のメンバーの名前と顔の区別まではつかない程度だったという。
演奏やトーク以外にも楽器のセッティング等で時間がかかる為、音楽番組の収録は長い。

「ごめん、今何時か分かる?」

初対面の祐也に突然声をかけられ、驚いた鈴香の喉から「ヒョッ?」っと奇妙な音が漏れ出たのだという。
一瞬時が止まり、目を見合わせた二人は声を殺して笑い合った。その後も祐也はイタズラ少年の様に「ヒョッ」とその声を真似てきた。鈴香は頬を膨らましながら肘で祐也の肩を小突き、そしてまた笑い合った。そんな何気ないやり取りで距離が縮まり、恋心を抱いてしまったのがきっかけだという。

都築は頭を抱えた。このシチュエーションは沼だ。年若い男女がこんな状況で恋をするなという方が無理な話だ。

「——私、辞める・・・。誰かを好きになる事を、よってたかって責められる様な環境にいたくない。もう全部辞める」

「いやちょっと待ってくれ、全部投げ出せばいいなんていうのはそれこそ無責任過ぎるだろう」
「だって都築さん、私何が悪いの?雑誌で叩かれる様なことしたの?」
「してないよ。してないからこそきちんと全部をはっきりさせて、叩かれるような事にならないようにしようとしてるんだよ」

——アイドルとしての自覚を——

ふと口から漏れそうになって飲み込んだ。こんな言葉は今は逆効果になるに違いない。

「そういえば、室伏広治はどうした?お前ずっと室伏室伏って・・・」
鈴香は『好きな男性のタイプは?』という、アイドルである限り幾度となく聞かれる質問に『室伏広治さんが理想』と答えてきた。公式プロフィールにすらその記載がある。

「その、細身の彼とはタイプが全然違うじゃないか」
「個性やろ!そんなん堂々とアイドル顔が好きですとは言えんやん。鈴香なりに色々考えて、トークのフック作ってるんよ」
 
身もふたもない言い方だが、芸能に生きる者の理屈としては正しい。

「室伏広治は本当にかっこいいと思うけど、かっこいいと思ってたけど、今は祐也くんがちゃんと好きです」

——ちゃんと好きです
ここだけ急に敬語にすることで自分の意志の強さを示しているのだろう。頑とした圧すら感じ取れる。

「分かった。それでその、祐也君とはどこで何をしたのかをできるだけ知っておきたいんだ。もちろん個人的な興味本位ではなく、週刊誌側への対応策を練るためだ。向こうからはその・・手繋ぎデートとしか聞いてないんだ」

十七歳の女子がこうしたプライベートに踏み込まれるのは酷なことだろう。しかし鈴香は意を決したような表情で前を向き直した。

「収録の後、紙に書いたLINEのアドレス渡されて連絡取り合うようになったの。それでお互いが休みの日にご飯でも食べようかってなって——」

バラエティ等の収録現場において、特にアイドルや俳優・女優は事務所の管理の目が厳しい。更にそれが男女間のコミュニケーションともなると、楽屋の挨拶一つとっても常にマネージャーが目を光らせており、連絡先を交換することなど容易ではない。
SNSのダイレクトメールも事務所が管理する場合が少なくない中、こうしたアナログな方法が一番有効な手なのかもしれない。

「お酒とかは飲んでないよ、向こうもまだ十九歳だし。中目黒でしゃぶしゃぶ食べて、少しお散歩して帰った。手はお散歩中にちょっと・・・繋いだ。どっちからって訳でもなく何か自然に。暗かったし大丈夫かなって思ったんだけど、横から急に写真撮られて…。でも本当にそれだけだよ」

——十九歳と十七歳が中目黒でしゃぶしゃぶを。
東北の田舎育ちである都築にとって、中目黒は未だに魔都であった。一見すると落ち着いた街並みに見えはするが、ファッションにおいてもグルメにおいても、洒落た隠れ家的な店舗が点在している事は噂程度に知っている。まるで死んだフリをしている猛獣のような街だ。正面から堂々と華やかさを演出する渋谷や原宿を高みから見下し、ほくそ笑んでいるような。そんな中目黒でしゃぶしゃぶを食べた鈴香が恐ろしくも眩しかった。

翌日、都築はパープル・セブンが所属する事務所の会議室にいた。外苑前に雄々しくそびえ立つ自社ビルであった。二十人はゆうに座れるであろう巨大な会議用テーブルを挟み、5名の東野祐也側の関係者と対面していた。

「鈴香さんのお話ですが、こちらが東野から聞いた話と違いはなさそうです。本人の性格上嘘をついている可能性も低いかと」

特段慌てる様子もなく、皆淡々とした表情だ。歴史ある大手事務所であるし、この程度のスキャンダルは幾度も潜り抜けてきたのだろう。都築と同世代あろう、チーフの男性が——勝手に雰囲気でチーフと名付けた男性が代表して続けた。

「飲酒等の違法性も無さそうですので、友人の中の一人で、戯れで手を繋いでしまったと、そんな発表でよろしいかと」

「そうですか・・・。あの、差し出がましいようですが発表内容は本人達の、東野さんと鈴香の意見も汲んだ上で詰められればと思うのですが」

当人不在の上、あまりにも事務的に進められる話に違和感を感じての意見だったが、チーム外苑前は一斉に冷笑を浮かべた。ずっと無言を貫いていた右端のマダムが、金色のペンを指先で遊びながら口を開いた。

「あの子達の感情を優先してあげたいのは山々です。あれだけ若いんですから恋もするでしょう。でもね、この業界に足を踏み入れたからにはまず契約事項が最優先です。各種CM、レギュラー番組のスポンサーが求めるイメージ。更に全国ツアーの動員見込みにも影響が出ないよう、事務所や局側、企業様とのそれぞれの契約に不履行が出ないように行動するのが、芸能に携わる者としての最優先事項でしょう。それは御社も同じだとは思いますが」

確かにその通りだ。タレント業というものはイメージを売っている。そのイメージにスポンサーが金を出し、番組やイベントが組まれ、業界全体が回るのだ。しかし、そうした観点からすれば駒の様に見えるタレントも生身の人間だ。契約契約でがんじがらめにしてしまうのは——

そこまで考えて都築は思った。言葉こそ違えど、自分も似たような理屈であの子達を縛っていたのではないかと。地球防衛という大義名分を盾に、貴重な青春時代の自由を蔑ろにしているのではないかと。目の前に居並ぶ連中の眼の、なんと濁ったことだろう。今の今まではきっと自分も同じ眼をしていたに違いない。
都築はテーブルの下でグッと拳を握ると、ガバッと立ち上がり、一人一人の目を見据えながら語り出した。

「彼女は、もちろん彼も・・そして我々も!業界云々の前に感情を持った一人の人間だ‼︎」——

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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