アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第7回 ~鈴香のスキャンダルその2~|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第7回 ~鈴香のスキャンダルその2~

コラム

アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第7回 ~鈴香のスキャンダルその2~

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中だ。
第6回では、表向きはアイドルグループ、実は地球を守るアイドル戦隊のメンバーである鈴香が、男性アイドルの東野祐也との熱愛が発覚。マネージャーの都築は東野の所属する大手事務所で対応策を協議するも、当人不在の上、あまりにも事務的に進められる話に違和感を感じ、「彼女は、もちろん彼も・・そして我々も!業界云々の前に感情を持った一人の人間だ‼︎」と言い放ったのだった!

 ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」
ファンタジーとリアリティを織り交ぜた、アルコ&ピース平子祐希の小説デビュー作「ピンキー☆キャッチ」撮影/宮川朋久

ピンキー☆キャッチ 第7回

突然の出来事で呆気に取られる幹部連中に構わず、都築は続けた。

「歌は人を歌い、演技は人を演じる。そこには喜怒哀楽様々な感情表現があって、だからこそ、そこに感動が発生する。人間が人間に魅了される。エンターテインメントの根幹は、人間である事ではないでしょうか?それを捨てたら、捨てさせてしまったら、そこに感情も感動も生まれません。鈴香は、人間らしく恋も出来ないのであればこの業界を去ると言いました。それは本末転倒も甚だしいとは思いませんか?その恋を、人間の豊かな感情の素晴らしさを広く伝えていくべきあの子達自身が、人間らしくあろうとする事を制限されるなんて…」

都築が椅子にへたり込むと、静寂が会議室を包んだ。人の背丈ほどもある柱時計の秒針が大きく聞こえる。沈黙を破るようにマダムがふうと息を吐き空を仰ぐと、チーフに問いかけた。

「最近はアレかしらね、公認カップルとして売り出すのも一つの手なのかしらね」
「…はあ。我々の時代からは考えられませんが、打ち出し方次第でしょうね。もちろん最初は多少の反発も出るでしょう。しかしオープンにした結果、同世代の共感を得て支持も高まるかもしれませんね」

色黒だが、人の良さそうな幹部も続く。

「報道されるとなると、ダンマリ決め込むのが慣例だったからなあ。あの年齢で、しかもアイドル同士が堂々と交際宣言するのはインパクトはあるかもな」
「みなさん…」

あくまでビジネスライクにではあるが、二人の恋を見守ろうと団結してくれた。強い眼差しで気持ちを伝えてきた鈴香を想うと、胸に迫るものがあった。

“どんな波風が立とうとも、俺が防波堤になるんだ”

都築は決意を新たにすると、外苑前のビルを後にした。神宮球場帰りのヤクルトファンの軍勢が流れてくる。きっと快勝だったのだろう、誰もが晴れやかな表情をしていた。五日後、件の週刊誌が発売された。表紙には『東野祐也、人気アイドル・ピンキー鈴香と熱愛手繋ぎデート』と大きく書かれていた。

「ピンキー鈴香では女子プロレスラーではないか」

そんな事を考えながら、コンビニで雑誌を買い、車内でチェックした。白黒の写真ながら、なるほど鮮明に撮れている。お互いそこまで変装もせず、さわやかでお似合いなカップルだ。ネットを調べると反応は様々だった。

『祐也にこんな子もったいない』
『あちゃ~、祐也遊び相手と撮られちゃったね。本気のハズないし』
『鈴香・・・おわた』
『鈴香の担当生きてる?だから理乃にしておけとあれだけ』
『別にいいでしょ、恋愛適齢期なんだし』

ファン心理としてはもちろん賛否の否が多数を占めている。しかしここからが勝負だ。堂々と交際していることを公表し、まずファン層以外の共感を集める。そのパワーが大きければ、元々否定的であったファン達が戻ってくる流れも見込める。

今日は午後からバラエティの収録だ。局外のスタジオの為、コメントを求めるマスコミも押し寄せるだろう。昨晩、東野側の事務所と最終決定の会議の席を設けた。詰めた結果は『決して臆さず、堂々と交際を宣言する』というものだった。
収録を終えたら鈴香はもちろん、メンバーにもこの決定を告げる予定だ。収録前に知らせてしまっては、妙なテンションになって取り留めのない収録になってしまう恐れがある。それだったら落ち込んでくれている方がまだマシだ。

迎えた車に乗り込んできた鈴香は、いつもと変わらずメンバーとはしゃいでいる。恐らく空元気であろう、周囲に気を遣わせまいと明るく振る舞っているのだ。
都築は例の決定を早く伝えてあげたい気持ちを飲み込んだ。この子達にとって事勿れ主義にしか見えていないであろう大人達が、異例とも言える決断を下したのだ。

『どれだけ喜んでくれるだろう』 

涙を流して歓喜する鈴香やメンバーを想像し、都築は胸を踊らせた。まるでサプライズプレゼントを携えているような気持ちだ、胸元が熱くたぎっている。
収録を終え、彼女達が楽屋に戻る。都築は廊下に人がいないのを確認すると、改めて扉を閉めた。

「ちょっと大切な話があるんだが、落ち着いて聞いてほしい」

重々しい都築を見て、室内に緊張が走った。敢えて渋い表情を作り、みんなを驚かせてやろうという寸法だった。3人は訝しげにソファに腰掛け、都築の言葉を待っている。

「鈴香。実はな、パープルの祐也君の事なんだが…」

全員が大きく目を見開き、それぞれ目配せを交わしている。これまでにも相談事をしていたのだろう、こういう時の女子は全員が当事者だ。

「祐也君の、向こうの事務所の方と話をしたんだ。本人達が不在の場で申し訳無かったが、俺も自分に出来る事は精一杯してあげようと思ってだな、それで一つの結論を出してきた。これは異例中の異例なんだが…」

ドラマチックにたっぷりと間を使った。多少芝居がかってはいるが構うまい。それだけの大きな発表なのだ。

「鈴香、祐也君との交際を堂々と公表しろ!!向こうの事務所も公認してくれたんだ!!」

弾かれるように理乃がガバッと立ち上がり、窓際にもたれかかると、外に目を向けたまま動かなくなった。七海は大袈裟にソファの淵に顔を埋めると、大きなため息を吐いた。この二人もずっと仲間の恋を大切に思いやってきたのだ。
鈴香は大きな目をさらに大きくさせ、言葉を紡げずにいる。無理もあるまい、想像も出来ないような結果を告げられたのだ。都築は弾けるような歓声を予想していたが、本当に驚くと人間はこうなるのだろうと思った。

「都築さん…」

ようやく振り絞るように鈴香が声を発した。掠れた声の続きを急がせるような野暮な真似はしない。都築は大きく頷き、言葉を待った。

「都築さん・・・・・・    私ら昨日別れたんだけど?」

反射的にもう一度ゆっくりと頷いた都築は、バッと立ち上がると、鈴香に負けぬほど目をひんむいた。こんなに単純な言葉の意味を頭が理解しかねていた。鈴香は唇の端に笑みをたたえて続けた。


「だってさぁ男らしくなかったんだもん。ああいう報道が出てさ、『どうしようどうしよう』ってずっとドギマギしっぱなしで自分の保身ばっかり気にしてて。『じゃあもう別れようか?』って言ったら逃げるように去って行ったもん。逆に良かった、変に深みにハマる前で」
「都築さん、私も七海も言ったんやけどな。都築さんには早めに話しとかなって…」
「そうだよ、事務所同士の話になったのは知ってるんだから…」
「だってそれ何か癪じゃん!週刊誌に撮られたから別れたみたいで。きっかけにはなったけど、ちゃんと私の意思で別れたんだもん!!」

女子3人がなにやら話をしているが、都築の耳にはもう何も入ってこなかった。テーブルの上の携帯が鳴り出した。画面上には『パープルマネージャー・チーフ』の文字が浮かんでいる。
都築の頭の中で、あの日の会議室での大演説がガンガンと響き出した。~「業界云々の前に感情を持った一人の人間だ!!」~「エンターテインメントの根幹は、人間である事じゃないでしょうか?」~「人間らしくあろうとする事を制限されるなんて」~

「・・さん!なあ都築さんてば!!携帯鳴っとるよ」
「・・・あ・・ああ・・」

携帯電話を手に取ると、都築はふらつく足で廊下に出た。人目を避けて非常階段への扉を開ける。外はとうにとっぷりと暮れて、遠くにビル群の照明が揺らいでいた。しばらくボ~ッと眺めていたが、着信はいつまでも鳴り止まなかった。

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
作品情報へ