テレビアニメ「氷菓」放送10周年!「クドリャフカの順番」編を軸に、そのおもしろさを再確認してみる
古典部に訪れた試練に絡む「十文字事件」
「クドリャフカの順番」のおもしろさは、ちりばめられた複数の謎が伏線となり、最終的に一つの思いへと収束していくところにあるだろう。これだけ多くの伏線を、非常に緻密な計算で配置した構成力、意外性の数々には脱帽し、観始めると止まらなくなる。クイズ大会、壁新聞への掲載、お料理バトル、校内ラジオの生放送出演と、文集完売のため宣伝活動に勤しむえると里志。漫画研究会と兼部している摩耶花は、漫画に関する見解の相違から部の中心である先輩と口論になり孤立してしまう。
そんななか、奉太郎は部室でのんびり店番をしながら、姉にもらった壊れた万年筆をきっかけに、「安全ピン→水鉄砲→小麦粉…」と“わらしべプロトコル”を行い、最終的には同人漫画「夕べには骸に」を手に入れる。一見すると無関係と思われていたものが意外なところで仲間を助け、十文字の正体を暴きだす重要なキーアイテムとなる。ミステリーにおける最大の魅力である謎解きと、アニメにおける伏線回収の楽しさが相まって、なにがどう転がっていくのかわからないワクワクへと導いてくれる。最後に奉太郎は、その明察な推理力と機転によって、古典部のピンチを救うことになるのだが…。
才能と羨望…青春期の光と影があぶり出される
テレビアニメ「氷菓」は単なるミステリーにとどまらず、登場人物たちの光と影も映しだす。自分と他人を比べ、才能のあるなしで勝手に期待したりあきらめたり、自分の将来と現実の狭間で思い悩む学生たち。ミステリーとはそんな人の心の隙間から生まれるものであり、まだ自分のことすらわかっていない奉太郎たちの年代にとっては、青春こそがミステリーだと言えるだろう。そんな彼らの前で起こった「十文字事件」は、とある学生の無自覚な才能によって心に傷を負った者による犯行であり、その正体を奉太郎が公にすることはなく、どこか歯切れの悪い幕切れを迎える。
「クドリャフカの順番」だけでなく、文集「氷菓」と“カンヤ祭”の名前の由来、「愚者のエンドロール」の結末なども同様だ。しかし、それらのしこりは青春時代に誰もが感じたであろう苦味や痛みを呼び起こし、観た者の心にしっかりとなにかを残していく。これこそが「氷菓」が並のミステリーではないことの所以なのかもしれない。
文/榑林史章