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戦争の記憶を令和にどう伝えるか。「ちむどんどん」が描いた“多様性”の反戦メッセージ

コラム

戦争の記憶を令和にどう伝えるか。「ちむどんどん」が描いた“多様性”の反戦メッセージ

沖縄出身俳優たちが向き合った、戦争の記憶を伝えるということ

第15週では、沖縄戦をリアルタイムで体験した人々の語りだけではなく、過去と現代を結ぶパートとして、新聞記者である暢子の(のちの)結婚相手、青柳和彦(宮沢氷魚)が関わっていくという流れも秀逸だった。和彦が沖縄本島南部のガマ(洞窟)で遺骨収集活動をしている嘉手苅源次(津嘉山正種)の取材をしにきたことをきっかけに、優子と再会。そこから回想シーンが展開されるという流れだった。

沖縄県那覇市出身である津嘉山が演じた嘉手苅が語る沖縄戦での艦砲射撃のすさまじさや、大切な人を失った悲しみ。筆者は、そのむごさや悲惨さを津嘉山の言葉の端々から感じたことで、改めて戦争の記憶を風化させないためにも、それらを物語やキャラクターを通して伝えられる連続テレビ小説の役割の大きさを痛感した。

このような物語に対し、メインキャストのなかの沖縄出身俳優たち――仲間や黒島らが並々ならぬ想いで参加したことは言うまでもない。

沖縄県糸満市出身の黒島は、暢子の快活なヒロイン像にぴったりマッチした。制作統括の小林大児チーフプロデューサーは、黒島のキャスティング理由について「地元沖縄出身者ということで、沖縄の独特の空気感というか、風と光みたいなものを体現できることだけではなく、シリアスな役柄もコミカルな役柄も両方こなせること、とてもお芝居にオーラがあること」と語る。

【写真を見る】 「ちむどんどん」でヒロインの比嘉暢子役を演じる黒島結菜 (91回)
【写真を見る】 「ちむどんどん」でヒロインの比嘉暢子役を演じる黒島結菜 (91回)[c]NHK


加えて小林プロデューサーは、黒島の座長力も称える。「黒島さんはヒロインとしてハイレベルな仕事をされているだけではなく、演技以外の部分でも、1つの作品を作るうえで、スタッフやキャストを含めたユニットの一員であるという楽しみ方もされているようです。だからカメラマンであろうが、照明のスタッフであろうが、気になることがあれば分野の垣根を超えて、声をかけてくださいます」。

なお、8月1日に放送された特集番組「仲間由紀恵・黒島結菜 沖縄戦“記憶”の旅路」は、ドラマ収録前に撮影されたものだった。この番組を観ると、黒島と仲間がいかに真剣に、かつ謙虚に役と向き合ったかがうかがえ、仲間においては実際に優子と同じく、遺骨収集作業を体験していたこともわかり、息を呑んだ。

黒島は同番組で沖縄を巡ったことで、ヒロインとして過去と現在とをつなぐ役割をしっかりと受け止めたようだ。「沖縄戦と向き合い、これからの私たちにできることを考えました。いまも世界のどこかでは戦争をしていて。過去の出来事は決して忘れてはいけません。無関心でいてはいけません。沖縄で起こったことを知り、そしてこれからのよい未来をつくるきっかけの一つになればと思います」。

多種多様な価値観を認める大切さを描く、令和の反戦メッセージ

現在の世界情勢については、多くの人々が言葉では表せないほど心を痛めていることだろう。ではどうすれば戦争のない世の中になるのだろうか。「ちむどんどん」で、そのヒントのようなものを提示してくれたのが、和彦の父で民族学者だった史彦(戸次重幸)だ。

和彦(宮沢氷魚)の母親役に鈴木保奈美(89回)
和彦(宮沢氷魚)の母親役に鈴木保奈美(89回)[c]NHK

時代は、暢子の小学校時代に遡る。史彦は学校へやってきて、暢子たち生徒の前で故郷の大切さを子どもたちに説いたうえで「思い出はそれぞれに違います。その違いを知って、考える。互いを尊重してください。その先にだけ幸せな未来が待っていると、私はそう思っています」と多種多様な価値観を受け入れ、互いをリスペクトしあうことの大切さを伝えた。

これこそが、令和4年放送のドラマとしてふさわしいメッセージではないだろうか。和彦はそんな父親の影響を受け、沖縄の文化や歴史を世に伝えることをライフワークにしているし、大人になった暢子も史彦の言葉を忘れてはいなかった。結婚に猛反対していた和彦の母、重子(鈴木保奈美)の前で、史彦の教えを口にし、感謝したことで、夫や息子との関係に深いわだかまりを持って心を閉ざしていた重子も2人の結婚を認めることになった。この伏線回収は、鈴木の名演と相まって称賛の声が多く挙がったことが記憶に新しいところだ。

ドラマに賛否両論は付き物で、本作に対する辛辣な意見を耳にすることもあるが、少なくとも「ちむどんどん」で描かれた一連の反戦メッセージが、1人でも多くの人にまっすぐに届いてほしいと、筆者は願ってやまない。物語もそろそろ佳境に入っていくが、どんな着地点に行き着くのか、最後までしっかりと見届けていきたい。

和彦との夫婦生活がスタート (91回)
和彦との夫婦生活がスタート (91回)[c]NHK

文/山崎 伸子

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