富野由悠季、「G-レコ」主演の石井マークを「辞めさせようかと思った」と告白
劇場版『Gのレコンギスタ Ⅴ』「死線を越えて」(公開中)の公開記念舞台挨拶が8月13日に新宿ピカデリーで開催され、石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也ら声優陣と富野由悠季総監督が舞台挨拶に登壇。石井たちは、第5部の魅力やテレビアニメ放送から数えて約8年となる「G-レコ」への万感の想いを語りあった。
富野総監督は、過去最長の時間をかけて制作し続けた「G-レコ」に対し、「この作品が今後どのように評価されていくかわかりませんが、50年くらいは保つだろうと思わせてくれたのもファンの方でした。皆さんと出会えたことは本当にうれしく思っています」と感謝した。
石井は「こうして皆さんに最後まで『G-レコ』を観ていただけたことは本当にうれしいです。作品を通して伝えられるものが『G-レコ』にはあると思っているので、皆さんがいままで持っていなかった意識や考え方を作品から知っていくと、これから先の自分の生き方が変わったりするんじゃないかと思いますし、僕もその中の1人です」と胸を張った。
嶋村は「もう泣きそう」と感極まった様子。「私たちも成長しているし、世界もいろいろ変わっていて、作品の感じ方がいつも違うんです。同じ作品だけど、8年前に感じたことと、いま感じていることの違いで新たな発見がある。監督は“50年残る”とおっしゃっていましたけど、この10年近い間だけでも、それは証明されていると思います」。
寿も「私たちも8年ほど作品に関わらせていただいて、監督やスタッフの皆さんはもっと長いこと積み上げてきた道のりがあって、そして今日がある。また、さらにここから始まってその先があると思うと、『G-レコ』って本当に偉大だなって思います」と感無量の様子。
佐藤は「足かけ10年近く、1つの作品にこんなに関わらせていただくこと、これだけ移り変わりの早いエンタテインメント業界のなかで、演じる我々も1つの作品、1つのキャラクターに寄り添わせていただくことって、そう多くはないと思うんです。ですので、こういった作品に関わらせていただくことは本当に役者冥利に尽きます」としみじみ語った。
富野総監督は「僕にとっては、“ガンダム離れ”をしなければならないという絶対的な条件があって、それを乗り越えるためにはどうするか考えて立てた企画でした。当初の段階では、『G-レコ』という作品は袋叩きにあっていますが、その一方でそんなことをご存知ない新しい世代の人が入ってきている。劇場版を取りまとめるにあたり、袋叩きに合いながらもやる気になったのは、若い人たちのおかげです。彼らが背中を押してくれたからであり、またそれは、観客が作品を完成させてくれているんだよ、ということなんです」と言葉をかみしめた。
8年間でもっとも印象的なエピソードを聞かれた石井は、オーディション時をこう振り返った。
「準備万端整えて、監督の前で『どうだ!』とやってみたら『芝居をしなくていいから』って言われ、その時が一番ビックリしましたね。なにが正解かわからないままオーディションに受かって、第1話の収録に行ったら監督から『腹から声を出せ!』と言われてパニックだったのを覚えてます。その後は、富野さんと演出の話はしていないのですが、ずっと見守ってもらっていた感じですね」。
富野総監督は「こういうのがベルリ(石井の役)なんだろうなという声質のマッチングの問題があって、この人はまだ素人なんだろうけど、これくらいまで発声できるとか、演技を組み立てることを覚えていくかもしれないというのは、なんとなく想像できたので最後までやってもらいました。ただ、途中で一度辞めさせようかと思った瞬間も、実はありました。それは僕の方の理由ではなくて、石井さんが勝手に辞めたがっていたという事件もありました」と告白。
石井は首を横に大きく振りながら「一時期ものすごくネガティブになり『自分には務まらないんじゃないか』とか、『これ以上、自分はもうなにもできないんじゃないか』と思い、一時期は現場に行くのが怖かったんです。でも、キャストの皆さんに応援していただいて、ガラっと自分のなかでなにかが切り替わって。それが劇場版第3部くらいで、手探りながらも自分のなかで“変わったな”という自覚があったんです」と語る。
それを受け、富野総監督は「彼がそのような感性を持っているという期待をしていたから、迂闊に辞めさせるのを止めました。やっぱりやらせてみるという決断に踏み切ることも、こちらの仕事としてあったのは事実ですね」とうなずいた。
最後に富野総監督は、台風のなかで来場してくれた観客にお礼を述べたあと「皆さんのなかから、次の新しい時代を拓くような作品を作るなり、そういう仕事をなさっていただけることを期待します。そのためには『Gのレコンギスタ』という作品が、おそらく無駄ではなかったんじゃないかと思えるうぬぼれもあります。今後は、皆様方の次の新しい時代を切り拓くような活躍に期待いたします」と力強く締めくくった。
文/山崎伸子