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観始めたらやめられない!韓国クライムドラマの新境地「模範家族」が持つ魅力に迫る

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観始めたらやめられない!韓国クライムドラマの新境地「模範家族」が持つ魅力に迫る

ドラマに魂を吹き込んだ空間と音楽の演出

登場人物たちの心情を映し出す見事な空間演出
登場人物たちの心情を映し出す見事な空間演出[c]Netflix

ドラマ「恋するアプリ Love Alarm」シーズン2の映像美も記憶に新しいキム·ジヌ監督は、プロダクションデザインに心血を注いだそうだ。 “事実的な寓話”というイメージを元に、葦の生い茂る人気のない道路、使われていない塩田、湖畔とバス停、グァンチョルの隠れ家、ドンハの書斎、ウンジュが一人で使う寝室などバラエティに富んだ空間を準備し、実際に日没や明け方に合わせて撮影を進めたことで、時間帯による絶妙な表情の変化を映し出すことができた。平凡な日常から離れていく人物の感情を引き立てるこうした空間演出で、視聴者は人物の心理に自然に共感し没入感を感じられるようになっている。

日没や明け方に合わせて撮影は、時間帯による絶妙な表情の変化を捉えている
日没や明け方に合わせて撮影は、時間帯による絶妙な表情の変化を捉えている[c]Netflix


さらに、ディテールの鬼才らしく音響効果についても悩み抜いたキム·ジヌ監督は、「風にそよぐ葦の音、セミの声、真夜中の森の音といった場面のムードや人物の感情を満たすのに気を遣った」と振り返る。また音楽については、 クライマックスに突き進む物語へ視聴者を集中させるのではなく、むしろ張り詰めた状況と対比する淡々とした感傷的なカントリー調の曲を使用することで緊張感ある描写と対比させ、ユニークな魅力を感じられるようにした。

「模範家族」というタイトルに込められた作り手の真意

アイロニカルなタイトルである「模範家族」が、家族の概念について改めて問い直す
アイロニカルなタイトルである「模範家族」が、家族の概念について改めて問い直す[c]Netflix

模範家族」というタイトルが示すように、“家族”という共同体のあり方を見つめ直すというテーマも盛り込まれている。ドンハたちは一見ありふれた家族の姿をしているが、長女は思春期で両親と衝突を繰り返し、次男は心臓に重大な病を抱えている。妻ウンジュも、家族に言えない大きな秘密を隠している。「模範家族」というのは、実にアイロニカルな表現だ。グァンチョルたち麻薬組織とジュヒョンの警察組織にも、同様の構造が見える。グァンチョルたちは仲間を牛耳るヨンス(チェ・ムソン)を中心とした疑似家族を形成しているが、ヨンスの義弟ガンジュン(キム・ソンオ)の台頭でグァンチョルの立場が脅かされ、結束の脆さが次第に露になっていく。

麻薬捜査という目的に向かうジュヒョンたちは一心同体のように見えるが、スパイの存在が見え隠れし疑心暗鬼に駆られていく。皆“家族”を守るために行動しているにもかかわらず、コミュニケーション不全のために危険な選択と決定を繰り返し、後戻りできない結末に向かうことになる。キム・ジヌ監督は犯罪スリラーというジャンルの形を取りつつ、現実的な人生について示唆的な物語を構築することで、作品の持つ意味を考えさせるのだ。

巧みな作劇と深みある俳優の演技で手堅く支持を広げている「模範家族」。その魅力に心奪われるファンは、まだまだ増えそうな予感がする。

文/荒井 南

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