『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』…ウォン・カーウァイ作品におけるファッションの効用 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』…ウォン・カーウァイ作品におけるファッションの効用

コラム

『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』…ウォン・カーウァイ作品におけるファッションの効用

「たくさんを見ることは、なにも見ていないのと同じ」

 4K版で公開中の『花様年華』
4K版で公開中の『花様年華』[c]2000 BLOCK 2 PICTURES INC. [c]2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED

ウォン・カーウァイ監督作品においてファッションを通じた視覚的な美術の表現として、カラーパレットの有効的な使い方がその代表だが、それが最も顕著に表現されている作品と言えば、『花様年華』だろう。主人公の2人は、お互いの配偶者の裏切りと寂しさから結ばれた絆でつながる。2人が互いの存在を必要とするころには、それぞれのファッションもリンクし始める。少し赤みがかったドレスとバーガンディのネクタイ。逢瀬を重ねる相手の部屋とどこかマッチしたデザインがあしらわれたファッション。好きになった相手の好きなものや趣味に、自分を合わせて変化していくことはよくあることだ。だけど、やっと大人一人ずつがすれ違うことができるアパートの階段や廊下、薄いグレーのような背景は変わらない。移り変わっていくのは、恋心を含む人間だけなのだ。

数々の美しいチャイナドレスも見どころ
数々の美しいチャイナドレスも見どころ[c]2000 BLOCK 2 PICTURES INC. [c]2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED


『花様年華』でのその風雅な表現は、映画界のみならず世界中から称賛を浴び、2015年ニューヨークのメトロポリタン美術館で、「China:Through the Looking Glass」と題された展示を実施するにあたり、この展示を協賛するVOGUEのアナ・ウィンター氏と同美術館コスチュームインスティテュートのキュレーター、アンドリュー・ボルトン氏の目にとまったことで、ウォン・カーウァイ監督は、同展示のアーティスティックディレクターに就任した。その経緯や開催までの苦悩に密着したドキュメンタリー映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』(原題The First Monday in May)で、監督がとあるミーティング中に放った言葉は胸を打つ。

ウォン・カーウァイ監督
ウォン・カーウァイ監督[c]EVERETT/AFLO

「(観客へ)見せるもの、つまり展示をせわしないものにしないことだ。なぜなら、たくさんを見ることは、なにも見ていないのと同じことだから」。監督自身の言葉で、作品でのファッションを通じた視覚的な美術を、これほど的確に表現したものはない。監督は、人の目やセンスがどのように心をとらえるかを熟知しており、そのために「引き算の美学」を、作品を通じて問うことのできる稀有な監督なのだ。

文/八木橋恵

関連作品