伝説的パンクバンドの繁栄と破滅を映像化!『トレインスポッティング』から「セックス・ピストルズ」へ受け継がれたダニー・ボイルのエッセンス|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
伝説的パンクバンドの繁栄と破滅を映像化!『トレインスポッティング』から「セックス・ピストルズ」へ受け継がれたダニー・ボイルのエッセンス

コラム

伝説的パンクバンドの繁栄と破滅を映像化!『トレインスポッティング』から「セックス・ピストルズ」へ受け継がれたダニー・ボイルのエッセンス

Diseny+で配信中のドラマシリーズ「セックス・ピストルズ」が好評を博している。音楽ファンなら、すでに観た人も多いのでは?1970年代後半にロンドンから登場し、パンクロックの荒波を起こしてユース・カルチャーを一変させたバンド、セックス・ピストルズの物語。映画ファンに注目してほしいのは、本作が『スラムドッグ$ミリオネア』(08)のアカデミー賞受賞監督、ダニー・ボイルの手によるものであることだ。実際、全6話を観終えた時の歯応えはかなりのものがある。そこで本稿では、ボイル監督に寄せて、この必見のドラマを語ってみようと思う。

【写真を見る】保守的な1970年代ロンドンの風潮に風穴を空け、様々な物議を醸してきたセックス・ピストルズ
【写真を見る】保守的な1970年代ロンドンの風潮に風穴を空け、様々な物議を醸してきたセックス・ピストルズ[c]Everett Collection/AFLO

保守的な70年代ロンドンに突如として現れ、刹那的に駆けて行ったセックス・ピストルズ

まずは基本をおさらい。舞台となるイギリスは階級制度が根強く残っており、リベラルな1970年代とはいえ、社会の主流は保守であった。そこに登場したのが、ジョニー・ロットン(ボーカル)、スティーヴ・ジョーンズ(ギター)、グレン・マトロック(ベース)、ポール・クック(ドラム)という労働者階級出の4人組、セックス・ピストルズ。やり手のマネージャー、マルコム・マクラーレンの手引きで1976年にデビューした彼らは、原始的かつ攻撃的なサウンドと、痛烈な皮肉とウィットに満ちた歌詞、そしてなにより、挑発的な言動で世間の注目を集めるようになる。

テレビ出演時に放送禁止用語を連呼し、エリザベス女王即位25周年式典の日にテムズ川を行くボートの上でゲリラライブを行い逮捕された。保守的な大人は忌み嫌ったが、若者たちは彼らを熱烈に支持し、アルバム「勝手にしやがれ!!」は全英チャートのナンバーワンを記録する。しかし、ジョニーの脱退、2代目ベーシスト、シド・ヴィシャスのドラッグによる突然の死により、バンドは2年足らずのプロキャリアで終焉を迎える。

テレビ出演時にも放送禁止用語を連呼した
テレビ出演時にも放送禁止用語を連呼した[c]Everett Collection/AFLO

ダニー・ボイルのイマジネーションも盛り込まれたバンドを取り巻く人々のドラマ

「セックス・ピストルズ」はこの実話のドラマ化だが、より正確に言うとスティーヴ・ジョーンズの自伝「Lonely Boy: Tales from a Sex Pistol」の映像化で、必然的に主人公はジョーンズに設定され、彼の視点で物語が紡がれている。貧しい家庭に生まれ、親の愛を得られずに育ち、盗みに手を染めていた音楽好きの少年が、マクラーレンの経営するブティックで多くの“同志”と出会い、ピストルズをかたち作っていく。しかし、彼の意思とは裏腹にバンドは制御できなくなっていった。そういう意味では、本作にサクセスストーリーの痛快さは希薄。シドの破滅的な行動がフィーチャーされるほど、ドラマは悲劇性を増していく。

ジョニーの友人だったシド・ヴィシャスが2代目ベーシストとして加入する(「セックス・ピストルズ」)
ジョニーの友人だったシド・ヴィシャスが2代目ベーシストとして加入する(「セックス・ピストルズ」)[c]Everett Collection/AFLO

ジョーンズの自伝をベースにしながら、ボイルはそこに創作ならではのイマジネーションを広げている。例えば、第3話「ボディーズ」。ピストルズの曲「ボディーズ」のモデルとなった女性ファンの逸話は、ジョーンズの自伝では数行触れられる程度。しかし、ボイルと脚本家のクレイグ・ピアース(『エルヴィス』)は、ジョニーの過去のインタビューなどの資料から肉付けし、精神病院で虐げられてきたこの女性が、セックス・ピストルズと遭遇したことで自身の主張を得るまでのドラマを作りだした。これは6話のなかでも、最もアツくなるエピソードだ。

「セックス・ピストルズ」のヒロインを挙げるなら、それは間違いなくクリッシー・ハインドだ。のちにロックバンド、プリテンダーズを率いて一世を風靡する彼女は、当時恋仲とは言えないまでも、ジョーンズとは親密な関係にあった。原作では2人の関係は抽象的にしか語られていないが、ボイルは本作で彼らの仲をある種のラブストーリーとして紡ぐ。ギターもまともに弾けないジョーンズに演奏を教え、時に体を重ねる。ジョーンズは米国籍の彼女に英国の市民権を与えるために偽装結婚する。それでも恋人になりきれない、彼らの微妙な関係。見方しだいでは、それはソウルメイトという言葉にも置き換えられるかもしれない。ちなみに、ハインド本人は、彼女を演じるシドニー・チャンドラーの役作りに協力している。

ジョーンズとハインドの、ソウルメイトのような微妙な関係性も描かれる(「セックス・ピストルズ」)
ジョーンズとハインドの、ソウルメイトのような微妙な関係性も描かれる(「セックス・ピストルズ」)[c]Everett Collection/AFLO

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