松山ケンイチとムロツヨシ、『川っぺりムコリッタ』の荻上直子監督からのダメ出しに苦笑
松山ケンイチ主演、『かもめ食堂』(06)の荻上直子監督最新作『川っぺりムコリッタ』(9月16日公開)のプレミア上映イベントが、8月30日に新宿ピカデリーで開催され、松山、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆、荻上監督が舞台挨拶に登壇。松山やムロは荻上監督から受けたダメ出しのエピソードを語り、会場の笑いを誘った。
ひっそりと暮らそうと、川べりの古いアパート“ハイツムコリッタ”に引っ越してきた孤独な男、山田(松山)。彼が、隣の部屋に住む図々しい島田(ムロツヨシ)、夫に先立たれた大家の南(満島ひかり)、墓石の販売員である溝口(吉岡秀隆)といった様々な事情を抱えた住人たちと出会い、少しずつ心がときほぐされていく。
『かもめ食堂』の荻上監督だからこそ、食べるシーンでの演出が厳しかったとか。松山は劇中でビールを飲むシーンについて「山田(松山)と島田(ムロ)が久しぶりにビールを飲むので、旨いじゃないですか。だから『ああ、旨い!』とやってたんですが、荻上監督から『すいません。ビール、旨くないですか?もっと旨いですよね』と言われて」と苦笑い。
「ごはんもそういう感じでした。僕がごはんを盛ったりすると『もっと盛りますよね。もっと盛りませんか?』と。演技の部分でキャッチボールする部分では事細かく演出されなかったと思いますが、口の中に入るものについてはものすごいこだわりがあるなと思いました」とコメント。
続いてムロは「荻上さんとの話をしますと、時間足りないけど、大丈夫ですか?」と前置きしたあと「荻上さんから役者としての考え方を変えさせてほしいと言われて。まさか『いままでのムロツヨシを捨ててください』と言われることなんてないと思ってましたが」と苦笑する。
ムロは荻上監督とサシ飲みをして、腹を割って話したのが功を奏したと言い「言葉で言うと難しいですけど、僕の役者人生は“荻上前、荻上後”で変わってますから。このタイミングで荻上さんと出会えて、作品に参加できたことは、本当にとてつもない人生経験なのかなと思います」とユーモアを交えて感謝する。
松山も「いままで見たことのないムロさんでした」と称えつつ「ロケでちょうどお昼に車で富山県射水市の蕎麦屋に行ったんです。そこでムロさんがサインを書いたら『川っぺりムロリッタ』になってて」と笑いながらツッコむと、ムロは「縦線を入れちゃったんだよね」と言うと、荻上監督は「図々しいよね」とうなずき、会場は大爆笑となった。
満島は「私も荻上監督と2人でご飯を食べた時、『変わった女だな』と思って『変わった女だな』と言ったら、監督から『お前のほうが変わった女だ』と言われました(笑)」というエピソードを披露。すると吉岡は「僕は監督と食事をしたことがないし、ムロさんと松山さんが蕎麦を食べに行くのも見届けました。僕、誘われてないんです」と寂しげにつぶやくと、松山たちは大慌てし、会場からドッと笑いが起こった。
クロストークでは、それぞれが好きな“ごはんのお供”を披露。松山は今回の撮影で食べてハマったという「イカの黒作り」、ムロは「ぬか漬け」、満島は「刺し身」、吉岡は「塩こんぶ」、荻上監督は「梅干し」を挙げた。
最後に松山は「この撮影の時期はずいぶん前になるんですが、いろんな方々が亡くなった時期でもありました。仕事仲間でも亡くなった方がいて、やっぱりそういう部分で僕たちもどっかで引っ張られてしまった部分もありました。いまはどうしても動きづらかったりとか、話しづらかったりとか、すごく縛りがある状況がずっと続いてて、身動きが取れなくなっている人たちもいると思いますが、自分自身を救っていくことはたぶん、自分1人だと限界があると思うんです」と真摯な眼差しを向ける。
また、本作の登場人物たちについて「最初はおせっかいだったのかもしれないですが、そういう人たちが実はセーフティネットになっていたってことが、きっとあるんじゃないかなと思います。この作品を通して、そういうところを周りの方たちと共有していただければなと思います」と力強く訴えかけた。
取材・文/山崎伸子