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「梨泰院クラス」から「六本木クラス」へ。「おっさんずラブ」の名脚本家・徳尾浩司の語り口が高める高揚感

コラム

「梨泰院クラス」から「六本木クラス」へ。「おっさんずラブ」の名脚本家・徳尾浩司の語り口が高める高揚感

胸が熱くなる!生きた会話の応酬

実際、葵が新の店のマネージャーになってからは、彼女に扮した平手友梨奈の魅力と可愛さ、戦闘モードも手伝って、新の復讐劇が葵と優香の恋のバトルを絡めながら熱を帯び、おもしろくなってきた。

この段階に入っても、オリジナルのシチュエーションやセリフに大幅な変更が加えられているわけではない。逆に、細部までオリジナルを踏襲してやろうという頑固ささえ感じられるのだか、それでいて、韓国版とはまた違った高揚感があるのが不思議だ。なにによってそれは生まれたのか?そう考え、両作をつぶさに見比べて行きついたのは、セリフの言い回しやニュアンスが微細に改変されているからに違いないという結論だった。

【写真を見る】竹内涼真の“パク・セロイ”ヘアしっくり!香川照之演じる長屋との“激突”も見ものだ
【写真を見る】竹内涼真の“パク・セロイ”ヘアしっくり!香川照之演じる長屋との“激突”も見ものだ[c]Kwang jin /tv asahi

例えば、葵が優香をトイレで挑発するシーンはオリジナルにもあって、セリフもほぼ同じ。だが、それが平手の目力や不敵な笑顔の強度も加わって彼女の最後のひと言「じゃ~あ、あなたを叩き潰さないと!」が圧倒的な破壊力で優香に突き刺さるから気持ちいい。あるいは、葵が新の夢を後押しするセリフを言うシーンでも、大きな夢を語る社長に彼女が「口から出任せじゃないでしょうね?」と聞き返す韓国版と違い、日本版の葵は「社長、言いましたよね?」と強く確認。そこでは日本語字幕と肉声の違いも影響していて、その後も「成し遂げましょう」→「一緒に夢を叶えましょう」という葵を演じる平手が言いそうな“生きたセリフ”に変えられているから、視聴者は心を大きく揺さぶられるのだ。

思えば、「おっさんずラブ」が人気を集めたのも、田中圭、吉田鋼太郎、林遣都らキャスト陣がハマり役で、彼らの生きた会話の応酬が面白かったからではないか!そう、その公式は「六本木クラス」でも活かされていて、主演の竹内涼真を始め、長屋茂役の香川照之も葵役の平手友梨奈もそれぞれの役にピッタリで、龍河役の早乙女太一のなりきりぶりに驚愕。新のビジネスパートナーになる桐野雄大(韓国版:イ・ホジン)役の矢本悠馬に至っては、韓国版で彼に扮したイ・ダウィットにあまりにも似ていて笑ってしまう。けれど、獄中の新と雄大が接見室で肝になる会話をするシーンでは、同じ芝居なのに、日本版ならではの絶妙な距離感と説得力があって胸が熱くなった。

社会現象を巻き起こした、おっさん同士のピュアラブストーリー「おっさんずラブ」
社会現象を巻き起こした、おっさん同士のピュアラブストーリー「おっさんずラブ」[c]2018テレビ朝日

それともう一つ。ここがある意味オリジナルとの大きな違いだが、韓国版では主人公のセリフで語られただけだったトランスジェンダーの料理長・綾瀬りく(さとうほなみ/韓国版:マ・ヒョニ)の過去を「六本木クラス」では回想シーンで紹介。女の子の容姿に憧れたりくが親に咎められる幼少期や新との出会いのエピソードを、ほかのキャラクターと同じように丁寧に描き、チーム「二代目みやべ」の結束力や仲間意識をより強いものに。些細なことだが、ほかの登場人物の過去はすべて等しく描かれているのに、りくの過去だけがぼんやりしていると、彼の存在そのものが希薄になってしまう。それこそ、ともに狂おしい過去を背負った者たちが強い絆で結ばれ、巨大な勢力に立ち向かう本作の壮大な逆転劇ではそこを強化することに大きな意味がある。それこそが、徳尾の細やかな仕事のなせる業。観客の共感度を高くし、クライマックスでの没入感を深める計算があってのことだろう。


同時に、徳尾がオリジナルのセリフを日本の、いまの六本木や西麻布で実際に交わされていそうな会話に変換した登場人物たちのスピーディなやりとりは回を追うごとにヒートアップ。それらが六本木ヒルズを始めとする見慣れた場所で飛び交う作品自体もどんどん熱を帯び、日本人がもともと大好きな友情と恋に彩られた復讐劇をよりドラマチックなものに。どんどんおもしろくなっていることは、ネットに好意的なコメントが増え始め、異例のV字回復を見せている視聴率を見ても明らかだ。

「二代目みやべ」を辞めた龍二は、優香と共に長屋の人間となるが…
「二代目みやべ」を辞めた龍二は、優香と共に長屋の人間となるが…[c]Kwang jin /tv asahi

それだけに、今後もその展開からますます目が離せない。これは単なる想像だが、「二代目みやべ」の自慢料理をオリジナルの純豆腐(スンドゥブ)チゲから日本人の若者が大好きな唐揚げに変えたのも、後半の起爆剤になることを考えた徳尾の周到な計画によるものではないか? 第1話で長屋茂が鶏の首を絞め、長男の龍河がそれを見たせいで鶏肉が食べられなくなってしまったという韓国版そのままの設定が、唐揚げにしたことでおもしろい効果を生み出しそうな気がする。

そうした細かいアレンジがボディブローのようにじわじわ効いてきて、それがクライマックスで未知の化学反応を誘発。ドラマ「六本木クラス」ならではの感動を呼び起こすのだろうが、本作をもっと楽しみたいなら、こちらも大きな人気を集めているコミック版「六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~」(扶桑社/全6巻)も併せて読んでみて欲しい。ドラマ版との違い、それぞれのクリエイターの表現やアプローチのこだわりがより明確に分かるはずだから。

文/イソガイマサト

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