ロサンゼルスに“東京駅”を作った!ブラピ主演作、“日本描写”の仰天裏側
ブラッド・ピット主演で伊坂幸太郎のベストセラー小説「マリアビートル」を映画化した『ブレット・トレイン』(公開中)。東京から京都へと向かう超高速列車のなかで繰り広げられる10人の殺し屋たちの死闘を描く本作で、特に注目すべきは徹底的なこだわりで作り上げられた“日本”。その制作の舞台裏を、メガホンをとったデヴィッド・リーチ監督が教えてくれた。
ピット演じる“世界一運の悪い殺し屋”レディバグが請けたミッションは、東京発の超高速列車でブリーフケースを盗み、次の駅で降りるという簡単なお仕事。しかし次から次へと現れる身に覚えのない殺し屋たちに命を狙われ、降りるに降りられない。そのまま列車は終着点の京都へと向かうが、やがて殺し屋たちをつなぐ過去と因縁が明らかに。そして京都で世界最大の犯罪組織のボス、ホワイト・デスと対峙した時、思いもよらぬ衝撃の展開が待ち受けることに。
日本が舞台の作品ではあるが、コロナ禍の影響で日本での撮影が叶わなかった本作。そこで制作チームは東京と京都の間の田園風景を特殊なアレイカメラで撮影することから始めたという。このハイビジョン映像をLEDスクリーンを使って投影し、高速で走る列車の速さに合わせて調整。そしてプロダクション・デザイナーのチームが作りあげた2両の実物大車両セットの車窓には、高速列車から見える“日本”が再現された。
「通常であれば、これは視覚効果を使って行なうものです」とリーチ監督は語る。「しかし100メートルある列車のセットにLEDスクリーンを吊り下げることで、この旅を列車内で撮影することができた。これはバーチャル・プロダクションと呼ばれるもので、俳優たちの演技に大きなメリットがあったと思います」と、俳優に没入感を与える画期的な撮影方法が映画のリアリティに一役買ったことに確かな手応えをにじませる。
劇中で描かれる“日本”は決してリアルなものとして意図されていない。様式化され誇張され、想像上の国のビジョンが必要とされつつも、同時に日本の文化に敬意を払った誠実さを感じられるようにしたという。制作陣は設定に自由を与えながらも、本作に最も適した舞台をデザインするため幅広いリサーチを行ったとのことで、本編を観た日本の観客からも「特徴がよく捉えられている」や「日本の駅にビアードパパがあると描写して見せたハリウッド映画がこれまであっただろうか」と話題に。
東京の雑多な街並みや、日本の駅には必ずと言っていいほど存在するコインロッカーや自動販売機、さらに看板や、日本のお菓子、新聞、雑誌などの小道具にいたるまで、すべての要素が現実味を帯びるようにカルチャーアドバイザーと緊密に連携を重ねていく。東京駅とその周辺のシーンはロサンゼルス・コンベンションセンターを駅に見立てて装飾し、ネオンサインや屋台が並ぶ東京の街はダウンタウンの脇道を変身させた。
「僕らは運命にまつわる現代の寓話を作っているから、その世界に逃避でき、物語に没頭できるようにするのがふさわしい。叶えたい願いや過激なキャラクターが満ちあふれていて、僕らは物理に反しているんです」と語るリーチ監督は「これは『ブレット・トレイン』の世界だ」と自信たっぷり。
これまでのハリウッド映画で描かれてきた“日本”とはまるで異なる、デフォルメされながらも細部に日本らしさがあふれた斬新でユニークな“日本”。是非とも劇場のスクリーンで、その世界観を目撃してほしい!
文/久保田 和馬