『沈黙のパレード』福山雅治×柴咲コウ×北村一輝、関係性の変化も楽しむチーム「ガリレオ」の結束力
「薫さんは、僕らをいろんなものから守るというか、つなぎとめておいてくれる存在」(福山)
――その意味で、今作は想像以上に湯川先生と草薙さんの友情についての物語で、「2人は親友だ」と内海薫さんもはっきり言うんですけど、じゃあ、湯川先生にとって薫は部下でも親友でもないけど他人でもない。関係性で言うと、いまどういうポジションになっているんでしょうか?
福山「薫さんは、湯川さんにとって…なんでしょうね。僕らをいろんなものから守るというか、つなぎとめておいてくれる存在で。薫がいるからこそ、湯川は安心して事件に対して、時に暴走するほど極端な踏み込み方ができる。『ガリレオ』シリーズが湯川と草薙だけの関係性で描かれていたら、もうちょっと違う空気感だったと思います」
――映画を観て懐かしかったのが、湯川先生の、薫を“斜め上”から見る、見下げる目線というか(笑)。
柴咲「うんうん、独特の目線がありますよね!」
福山「あれは無言の突っ込みですね(笑)」
柴咲「もうね、心地いいですね(笑)。相容れない部分があるというのがお互いはっきりしていて、それが安心感や信頼、心地よさになっているという関係なんですかね」
福山「うん」
柴咲「いつも中途半端でスパッと切って、全部は教えないみたいな。ほかの人には優しいのに、なぜですか?湯川先生」
福山「まあ、美人が好きだからじゃないですか?いじりたいんじゃないですかね(笑)」
柴咲「じゃあ、あれ、ツンデレってことなんですね?どうだろう、それ(笑)」
福山「本作は薫が久々に現場に帰ってくるんですけど、薫が湯川先生に会いにくるっていうことは、つまりなにか大きな問題を持ってくるわけで。ただ単に会いに来るわけじゃないので、さあ、どんな重たいボールを持ってきたんだろうなと。勝手知ったる仲の薫は、どうやって湯川を乗せていくか。柴咲さんはもう、薫を演じる熟練の技で持っていってくれましたけど、その“技”の深みが増してると思います。だって、再会するまでにいろんなことがあったはずです。薫自身にも」
柴咲「シリーズものってそんなにたくさん出てきたわけではないんですけれど、自分が出ていない時でも、完全に離脱しているわけではなくて、内海薫というキャラクターがずっと、そこはかとなく根付いているような感覚なんです。なので、『沈黙のパレード』をやると決めた時から、心の中、頭の片隅で、あの後、薫はどうやって生きてきたのかな、この17年、きっと仕事でもいろいろあっただろうし、アメリカに渡っていつ帰ってきたのかなと、ふと気づいたら考えてるみたいな。だから再結成したバンド感というか、『あ、大丈夫だ、ちゃんと始まれた』という感じで現場に入っていけました。最初はちょっと緊張しましたけどね(笑)」
福山「薫と湯川の初顔合わせのシーンはファミレスで会って、今回の事件の概要を聞く場面からだったんですけど、撮影に結構な時間かかって。お互いにテイクを重ねて少しずつ手応えを感じながらっていう撮影でした。僕は、『ばっちりだな、さすが柴咲コウ!』と思っていたんですけど、柴咲さんは最後まで『大丈夫だったのかな…』『どうなのかな…?』って首をぶつぶつ言いながら帰っていく小さな背中が愛おしかったです」
柴咲「湯川先生は台詞が長くて大変なはずなんだけれど、福山さんはずっとケアしてくれるのですよ。さすが湯川先生、余裕だなと思いました」
「『ガリレオ』シリーズは、まさに法を超えたところにある“人間の愛”について言及しているのがおもしろい」(北村)
――『沈黙のパレード』は、タイトル通り、限りなく黒に近いと推測されるけれど、容疑者が“黙秘”を完徹したことにより、罪を問えなかった事件を題材にしています。北村さん演じる刑事の草薙は、かつて逮捕できなかった男、蓮沼(村上淳)が再び、別件の容疑者として現れて葛藤しますね。
北村「今回の『沈黙のパレード』だけでなく、これまで何度も弁護士や警察官の役を演じてきて、プロフェッショナルな方々に取材させていただいたことがありますが、事件に関わっている方たちには葛藤があり、なにが正義で、なにが正しいのかをずっと自分に問い続けているんですね。弁護士の方がよく言いますけど、時には『なぜ、この人を守るのか』と揺らぎながら頑張られて、弁護する時もあるといいます。
僕自身の考えではありますけど、法律や法の裁きが絶対の正義とは限らない。東野圭吾さんの『ガリレオ』シリーズの作品は、まさに法を超えたところにある“人間の愛”について言及しているのがおもしろい。法律には限界もあるし、抜け道もあり、だからこそ悪がはびこっていたりするので、そういう現状をこの映画で謳うことは、僕はいいことだと思います。もちろん、模倣犯は出て欲しくないですけど、みんなで考えるべき問題であるだろうなと思いますね」
――薫さんは相変わらず凛としてらっしゃって、湯川先生はスマートな大人の男になってるんですけど。草薙さんだけは、自分が取り逃がした容疑者によって新たな殺人事件が起きたのではないかと苦悩し、ヒゲ面でボロボロになっていく。その対比をおもしろく拝見しました。
北村「あれは西谷弘監督のイメージをいただいています。冒頭、蓮沼が容疑者としてあがってきた時、彼の写真を観て嘔吐するシーンがあり、そこから物語が動いていくので、そんなにバクバク食べてというような状況ではなくて、そこから身体を絞っていき、常に疲弊しているような、そういうアプローチはしましたね」
柴咲「ずっと口が渇いている感じでしたよね。『ああ、もう、草薙さん、水飲んで!』みたいな」
北村「うん、ぱっさぱさだった(笑)」