第74回エミー賞を総なめした「メディア王 〜華麗なる一族〜」、高評価の理由は?

コラム

第74回エミー賞を総なめした「メディア王 〜華麗なる一族〜」、高評価の理由は?

ロサンゼルス時間9月12日に行われた第74回エミー賞で、ドラマ・シリーズ部門作品賞ほか4部門を受賞した「メディア王 〜華麗なる一族〜」。2018年の放送開始以来、アメリカのテレビ賞の最高峰と言われるエミー賞の常連となっている、このドラマの人気と高評価の理由を探ってみたい。

【写真を見る】今年のエミー賞で4部門を受賞!話題沸騰中の「メディア王 〜華麗なる一族〜」の魅力とは?
【写真を見る】今年のエミー賞で4部門を受賞!話題沸騰中の「メディア王 〜華麗なる一族〜」の魅力とは?[c]EVERETT/AFLO

ドラマの舞台はニューヨーク。巨大メディア企業ウェイスター=ロイコ社の創業CEOローガン・ロイ(ブライアン・コックス)を家長としたロイ家には、4人の子どもたちがいる。次男ケンダル(ジェレミー・ストロング)、長女シヴォーン(サラ・スヌーク)、三男ローマン(キーラン・カルキン)、そしてローガンの前妻との間に生まれた長男コナー(アラン・ラック)。高齢のローガンが体調を崩し倒れたことで、シヴォーンの婚約者でロイコ社員のトム(マシュー・マクファディン)と失業中のところを救われた4きょうだいの親戚グレッグ(ニコラス・ブラウン)を交えた後継者相続戦争が勃発する。

壇上のスタッフ&キャストたち
壇上のスタッフ&キャストたちPhoto by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

「メディア王 〜華麗なる一族〜」に漂う全体的なムードを形成するのは、ロイ家の人々やウェイスター=ロイコ社の社員たちの言動。誰もが虚栄心に満ち、家族間でも容赦なく欺き合う彼らの姿は、思わず眉をひそめたくなるほど滑稽だ。そして物語は想像もしない方向に進み、彼らは視聴者さえも見事に欺く。放送初年度のエミー賞でオリジナルメインテーマ楽曲賞を受賞したニコラス・ブリテル(『それでも夜は明ける』(13)、『ムーンライト』(17)などの音楽監督)によるテーマ曲を聴いただけで、えもいわれぬ奇妙な気分がよみがえってくるほどだ。

ショーランナーのジェシー・アームストロング
ショーランナーのジェシー・アームストロングPhoto by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

制作総指揮は『ドント・ルック・アップ』(21)などのアダム・マッケイ、主に英国でドラマや映画を作ってきたジェシー・アームストロングがショーランナーを務める。エミー賞ドラマ・シリーズ部門脚本賞を3シーズン連続で受賞しているアームストロングは、「シーズンの最初のほうで少し触れたことを再構築しながら物語を進め、終盤に向かうにつれて本質が明らかになるよう整合性を計ります。それが有機的に働いているのだと思います。脚本家チームは、本当に一生懸命、精魂を込めて最高のセリフを書くように務めています。私たちの背後には、少しでも物語のリズムを崩すようなことがあろうものなら絶対に許さない、飛び抜けて優れた俳優たちがいるので、気を抜けません。これから起こることをここですべてお話ししてもいいのですが、視聴者が興ざめしてしまうので、すべてサプライズにしておきましょう」と、この独創的な脚本の構築方法の秘密を授賞式後の会見で明かしていた。

グレッグ役のニコラス・ブラウンと、トム役のマシュー・マクファディン
グレッグ役のニコラス・ブラウンと、トム役のマシュー・マクファディンPhoto by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

「メディア王 〜華麗なる一族〜」の脚本家チームの一員として数エピソードのメインライターを務めたウィル・トレイシーは、エミー賞授賞式と同時期にカナダのトロント映画祭でお披露目された『ザ・メニュー』(11月11日公開予定)の脚本を務めている。「メディア王 〜華麗なる一族〜」にエグゼクティブプロデューサーおよびメイン演出家として携わるマーク・マイロッドは、トレイシーが書いた脚本を読み、今作の監督を志願したそうだ。余談だが、同じくエミー賞常連だった「ゲーム・オブ・スローンズ」の演出も務めていたマイロッドは、「(ショーランナーの)デイヴィッド(・ベニオフ)とダン(D・B・ワイス)は美食家で、ヨーロッパでの撮影時にはミシュラン星つきのような高級店に連れて行かれるけれど、いつもどこか居心地が悪かったんです。その気持ちが、『ザ・メニュー』の脚本を読んだ時によみがえってきました」と語っている。「メディア王 〜華麗なる一族〜」を象徴する演出である、家庭用ビデオのようなデジタルズームで役者を捉えるカメラは、ハイソサエティを眺めるマイロッドの率直な視点が活かされているのかもしれない。


マクファディンはドラマ・シリーズ部門助演男優賞を受賞
マクファディンはドラマ・シリーズ部門助演男優賞を受賞Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images

今年のエミー賞では、作品賞のほかドラマ・シリーズ部門助演男優賞を長女シヴォーンのパートナー、トムを演じたマシュー・マクファディンが受賞している。同部門には三男ローマン役のキーラン・カルキン、親戚のグレッグ役ニコラス・ブラウンもノミネートされ、主演男優賞部門には父親のローガンを演じたブライアン・コックスと次男ケンダル役のジェレミー・ストロング、助演女優賞にシヴォーン役のサラ・スヌークとロイコ社の法律顧問ジェリ役を演じたJ・スミス=キャメロンがノミネートされている。つまり、メインキャラクターほぼ全員がノミネートされるという偉業からも、クセのある役者陣によるアンサンブル演技が評価されていることがわかる。その証拠として、ドラマ・シリーズ部門キャスティング賞を2020年のシーズン2に続き連続受賞している。

シヴォーン役のサラ・スヌークとアームストロング
シヴォーン役のサラ・スヌークとアームストロングPhoto by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

「メディア王 〜華麗なる一族〜」は現在、シーズン3までU-NEXTで配信されており、待望のシーズン4は2023年にアメリカHBOで放送予定。エミー賞だけではなく、ゴールデングローブ賞(テレビ部門作品賞、男優賞、助演女優賞など)、全米映画俳優組合賞(SAG賞)アンサンブル賞(作品賞)、批評家協会テレビ賞(ドラマシリーズ部門、助演男優、助演女優など)、全米脚本家組合賞(テレビドラマシリーズ賞)など、テレビドラマシリーズに関する賞を総なめという輝かしい受賞歴がある。テレビシリーズと映画界の境界線はもはやないに等しく、『ザ・メニュー』のような作品でドラマ出身監督と脚本家が脚光を浴び、双方のメディアを活性化させていく。現在、アメリカのテレビドラマ界の最高に位置すると言っても過言ではない「メディア王 〜華麗なる一族〜」からは、新しい才能が次々とピックアップされることだろう。

文/平井伊都子

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