アメリカの歴史をも動かした女性たちを描くドラマ「ファーストレディ」 主演女優3人が語る、ファーストレディを演じる極意

「演じる前は恐怖を感じていた」(ヴィオラ・デイヴィス)

そしてこの「ファーストレディ」で最大の見どころが、主演3人の名演技であるのは言うまでもない。ミシェル・オバマ役のヴィオラ・デイヴィスが「ミシェルは、バラク(・オバマ)よりも人気があった」と語るように、歴代のファーストレディでも特に知名度の高い3人を描くので、どうしても観る側は、どこまでそっくりに再現しているかが気になる。中でもミシェル・オバマは、2017年までの8年間、ファーストレディだったので、日本人にとってもその容姿、イメージはありありと頭に浮かぶはずだが、演じたヴィオラ・デイヴィスが、外見や話し方、さらに姿勢や動き方まで、あまりにそっくりで驚くほど！もともとイメージが近いとはいえ、過去の実在人物の再現例と比べても、最高レベルではないだろうか。

アカデミー賞だけでなくエミー賞、トニー賞も受賞しているヴィオラ・デイヴィスも、さすがにミシェル・オバマ役にはプレッシャーがあったようで「演じる前は恐怖を感じていた。オバマ大統領就任時に直面した事実や、娘たちをどう呼んでいたかなど細部をありのままに再現し、私生活での夫との会話などに私なりの創意工夫を入れた」と振り返る。

一方で、すでにこの世にいないエレノア・ルーズベルトとベティ・フォードは、本人と比較されて批評されるリスクは少ないものの、ファーストレディ時代の写真などを見ると、演じた2人がうまく雰囲気を再現していることがわかる。エレノア・ルーズベルト役は「X-ファイル」のスカリー捜査官でおなじみのジリアン・アンダーソンで、ドラマシリーズ「ザ・クラウン」ではマーガレット・サッチャーという実在の政治家を演じた経験もある。実在の人物を演じる秘訣をジリアンに聞くと、次のような答えが返ってきた。「その人生を綿密に調べ、頭に入れて、撮影現場で私なりの『声の出し方』をつかむこと。最初のうちはロボットになったつもりで、徐々に身体に役が馴染んでいく」。

ベティ・フォードを演じたミシェル・ファイファーは、役になりきるプロセスについて「準備用のトレーラーに入り、その日のセリフを繰り返しながら、メイクアップやヘアドレッサーのスタッフに外見を近づけてもらっているうち、自分がベティを演じることへの疑問が消えていく。準備が終わると、そこにいるみんながベティ・フォードを好きになっている感覚を味わった」と告白する。

夫たち、つまり大統領役のキーファー・サザーランド(ルーズベルト)、アーロン・エッカート(フォード)、O・T・ファグベンル(オバマ)も好演しており、特にオバマの丁寧な再現には感心させられる。ファグベンルは『ブラック・ウィドウ』(20)でも主人公の協力者を好演しており、今後、注目が集まりそう。とはいえ、この「ファーストレディ」は女性たちの視点が貫かれており、大統領たちはあくまでサポート的な立ち位置。監督を務めたのがデンマーク出身で近年はハリウッドでも活躍するスサンネ・ビアであり、主演の3人以外にも、ベティ・フォードの娘、スーザン役でダコタ・ファニングが重要な役回りを果たすなど、女性たちの物語なのは明らかだ。

そのダコタ・ファニングも「ベティ・フォード、ミシェル・オバマ、エレノア・ルーズベルトの3人が、それぞれの時代の女性たちの未来、その可能性をどう広げていったかを観てほしい」と作品の見どころを語っている。

エレノア・ルーズベルトのシーンに、こんなセリフがある。
「私たちはティーバッグと同じ。熱いお湯に浸けられて、その強さがわかる」
ファーストレディたちの知られざる真実と、強い決意。そこにストレートに敬意を抱き、心が揺さぶられる瞬間が何度も訪れるはずだ。

取材・文/斉藤博昭