『HiGH&LOW THE WORST X』前田公輝と塩野瑛久が語る、釣り仲間たちの“ちょうどいい”関係性
「電話して振り返ったら轟がいるシーンはカッコよかった!」(塩野)
――ぜひアクションシーンの裏話も聞かせてください。
前田「今回みたいに楓士雄、轟、小田島の3人で向かっていく時って、仮に3人とも10手ずつつけたとして、それを別々のスピード感でやっちゃうと合わないんですよ。どちらかの手はもう終わってるのに、ほかの誰かの手はまだ続いているから、やることがなくてどうしようみたいな。そうすると、急に物語が止まったみたいな感じに見える。そこの呼吸感はちょっと頭を働かせないといけないというか、新感覚でしたね」
塩野「今回はそういう場面が多かったですね。3人で体育館に到着してすぐのアクションもそうですし、楓士雄との廊下のシーンも」
前田「あと、須嵜戦ね。めっちゃムズいんですよ、2対1って。いつも辻と芝マンは2対1のツインで戦ってるのに、そんな苦労話を全然僕に言ってこなくて。きっとそれはアイツらの中の美学なんだろうなと思うと、男としてちょっとかっこいいなと思いました。一番難しいかもしれない、2対1は」
――どういったところが難しいんですか?
前田「シンプルに当たっちゃいそうになるんです。避けてるところの隙間に向こうからパンチが来たりとか」
塩野「もうちょっと離れてやったら、当たりそうになるリスクは減らせるんですけど。全員が画の中にキュッと収まるほうがタッグ感は伝わりやすい。だからギリギリまで接近して戦うことにこだわりたくて。本当、スレスレの隙間を縫ってパンチを繰り出していかなきゃいけなかった。あれはたしかに難しかったですね」
前田「そうそう。相手の軌道を先読みして、そこに自分のパンチを入れなきゃいけないから」
塩野「しかも、その間に細かいリアクションもちゃんと入れなきゃいけないっていう」
前田「2対1だと“死に間”(演者がなにもしていない状態の不自然な間のこと)が絶対できちゃうんですよ」
塩野「こっちは次の手に行きたいけど、相手がいるから行けないみたいな。その間を埋める作業も必要でしたね」
前田「だから、ダメージを受けているリアクションを入れて間を埋めるとか、そういう見せ方の工夫が大事でした」
――個人的には、楓士雄と一緒に戦うのが轟と小田島であるということが胸熱でした。3人がバシッと並んだときの画がカッコいいというか。
前田「あそこ、カッコよかったですよね。廊下で閉じ込められたところに小田島が『毎度~。殺し屋鳳仙だす』って来るところ。あれはズルいっすね」
塩野「カッコいいと言ったら轟でしょ。電話して振り返ったら轟がいるところはカッコよかった!」
前田「あそこはもともと、ああいう撮り方じゃなかったらしいんですよ。僕も段取りの時はノリさん(平沼紀久監督)がどういう演出をつけるかわかっていなくて。その場で僕がやってみたものに合わせてカット割りを変えてくださったんです。それで、ああいうシーンになって」
塩野「あとはやっぱり轟の『殺す』のどアップね。なんであんな般若みたいな顔になってんの(笑)」
前田「あそこは台本に『轟、振り返ると鬼の形相』みたいなことが書いてあったから、鬼かあと思ってやったらああなったの(笑)」
塩野「あとは前作もだけど、走ってる時の顔とか、轟はどれもすごくカッコいいですね」
前田「でもたしかに楓士雄、轟、小田島というのはなかなかレア感があるよね。そこにさらに鈴蘭が加わってきて。そういうキャラ同士の絡みは貴重なシーンの連続かも」
塩野「奇跡のクロスオーバーですからね」
前田「それぞれのヒーローが集結したような感じは今回の見どころの一つです」
「いままでで一番人間らしい轟を見せたかった」(前田)
――轟は、これまでは対村山だったり、対楓士雄という軸がありました。今回はどんなことを心に置いて轟というキャラクターを作っていきましたか。
前田「今回、鮫岡(長谷川慎)から『お前、変わったな』と言われるじゃないですか。でも、ビジュアルは前作から変わっていない。そのなかで、どこまで変えるべきなのかは考えたところでした。仲間たちがやられて、瀬ノ門に乗り込みに行こうと血の気が立ってる鬼邪高のやつらに、轟が『司を助けることだけを考えたほうがいい』と言うのも、あれが誰もついてこない孤独な轟のままだったら響きにくいと思うんです。ある程度、轟が鬼邪高の色に染まってるというか、絆が見えないと僕の中では成立しなかった。だから、一匹狼の轟がどう鬼邪高に寄り添っていくかが今回のテーマで。いままでで一番人間らしい轟を見せたいというところから、逆算してつくっていきました」
――小田島はどうですか?
塩野「柱にしたのは、やっぱり鳳仙の仲間であるシダケン(荒井敦史)との関係性ですね。髙橋(ヒロシ)先生がつけてくれた幼なじみという設定を大事にしたいなと思ったので、そこは外せないところでした。あとはやっぱり鳳仙が主軸になる話ではないので、そのなかでどれだけ関係性を見せられるか。仁川(小柳心)との絡みとか、ああいうのが節々で出ることによって、学校の色が出ればいいなと。小田島ってそれができるキャラクターなんですよ。轟との絡みにしても、これがツンケン同士だと無理やり合わせた感が強くなる。でも、小田島のちょっと掴めないキャラクターだからこそできることはいっぱいあって。ある意味、接着剤じゃないですけど、人と人をつなぐ存在になれるのが小田島。人同士の関係性のつなぎ目に小田島はいるのかなと思いながら演じていました」
「どっちのほうが”ダサくない”生き方かを考える」(塩野)
――「ハイロー」って男のカッコよさが詰まった映画だと思います。お二人が思うカッコいい男ってどんな男性ですか?
前田「聞き手に回れる男ですね。すごい能力がある方とか、世の中的に成功者と言われる方たちって、自らを語らない。むしろ自分からいろいろと情報を仕入れて、その位置に辿り着いた気がしていて。自分のことを一番よく知ってるのは自分自身。だから、本来なら自ら自分を語る必要はないはずなんですよ。でも、つい承認欲求から語ろうとしてしまう。そうじゃなくて、聞き手に回れる人。『能ある鷹は爪を隠す』を体現している人が、僕のなかではトレンドというか、最近のカッコいい男のトップですね」
――ちなみに前田さん自身はどちらかと言うとよく話す側の人に見えますが…(笑)。
前田「逆ですよね(笑)。だからかもしれないです。僕、発信側なんで」
塩野「でもすごい聞きだしてくれますよ。よく人に『こうなの?』『ああなの?』って質問してるイメージがある」
前田「めっちゃフォローしてくれてます」
塩野「逆に僕のほうが人に質問する時に、『なにを聞けばいいんだろう?』って考えちゃったりするんで」
前田「そう?アキくんこそ聞き手タイプの気がするけどね」
塩野「そんなことないですよ。意外と自分の話のほうがペラペラ喋れる」
前田「そっか、おもしろいね。アキくんはある?カッコいい男像」
塩野「いや、考えてるんですけど、なかなか浮かばなくて」
前田「男の美学とかね」
塩野「美学っていう意味では、それこそカッコよく生きていたいっていうのはある。ダサくなりたくなくて。なにか二択を迫られた時にどっちのほうがダサいかって考えちゃうんですよね」
前田「そのダサいかどうかは、いわゆる直感ってやつ?」
塩野「直感です」
前田「じゃあ、直感を信じられる男だ」
塩野「例えばですけど、おじいちゃんが見てたらどう思うかなとか、そういうことは考えますね。おじいちゃんがいまの自分の姿を見てどう思うか。どっちを選んだほうが『お前、ちゃんと生きてんな』って思ってくれるかなって。そういう軸で決定したりすることはあります」
前田「オッケー、わかった。アキくんのカッコいい男は、魂を感じる選択ができる男だ」
塩野「おお、カッコいい。それでお願いします(笑)」
取材・文/横川良明