湊かなえ&廣木隆一監督に現地ファンが殺到!『母性』がバンクーバー国際映画祭で世界初披露

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湊かなえ&廣木隆一監督に現地ファンが殺到!『母性』がバンクーバー国際映画祭で世界初披露

累計発行部数120万部を突破した湊かなえの同名小説を映画化した『母性』(11月23日公開)が現地時間10月5日、カナダで開催中の第41回バンクーバー国際映画祭で正式招待作品としてワールドプレミア上映され、現地入りした廣木隆一監督と原作者の湊が舞台挨拶とQ&Aセッションに登壇。エンドロールが流れ始めると同時に拍手が巻き起こるなど、バンクーバーの観客の熱い反応に2人が感無量の面持ちを見せた。

バンクーバー国際映画祭で行われた『母性』ワールドプレミアに、原作者の湊かなえと廣木隆一監督が登場
バンクーバー国際映画祭で行われた『母性』ワールドプレミアに、原作者の湊かなえと廣木隆一監督が登場

母娘役として、戸田恵梨香と永野芽郁が共演した本作。ある未解決事件を、“娘を愛せない母”と“母に愛されたい娘”、それぞれの視点で語り、2人の食い違う証言から衝撃の真実へと辿り着くミステリードラマだ。この日は、650人収容の大スクリーンを誇る会場、Vancouver Playhouseにて本作が上映された。コロナ禍の影響で昨年ようやく一部の映画館上映が復活していたものの、本格的にリアルなイベントを催せるのは実に3年ぶり。満席に埋まった会場から温かな拍手に迎えられ、上映前の舞台挨拶に登壇した2人は緊張した様子で会場を見渡した。

Q&Aコーナーでは観客からの生の感想が飛び出した
Q&Aコーナーでは観客からの生の感想が飛び出した

過去にもバンクーバー国際映画祭にたびたび招待され、第37回の『ここは退屈迎えに来て』(18)以来4年ぶりの参加となった廣木監督は、「サンキュー。こんばんは。上映後もQ&Aセッションがあるのでたくさん質問してください」と笑顔で挨拶。国際映画祭への参加も、バンクーバーの訪問も初めてという湊は「たくさん話すとネタバレしてしまうので(笑)、とにかく映画を楽しんでください」と上映前の会場に語りかけ、歓声を浴びた。残念ながら現地での参加は叶わなかった主演の戸田から、この日のためだけのビデオメッセージが到着するひと幕も。うれしいサプライズに観客から「ワオ!」という興奮の声があがるなか、戸田からのメッセージでは「バンクーバーの皆さま、ご来場の皆さまがこの映画をどんなふうにご覧になって、どんな感想をお持ちになるのか、とても楽しみにしています」と反応を期待する言葉が寄せられた。

【写真を見る】戸田恵梨香がビデオメッセージでサプライズ登場!現地ファンからも歓声が上がった
【写真を見る】戸田恵梨香がビデオメッセージでサプライズ登場!現地ファンからも歓声が上がった

上映中には、母親のルミ子(戸田)が娘である清佳(永野)に対する葛藤をにじませる一コマや、清佳が母の愛情を求めて健気な表情を見せる場面で、涙をぬぐう人の姿も見受けられた。また高畑淳子演じるルミ子の義母が強烈な個性を見せつけると、会場からはたびたび笑い声があがるなど、バンクーバーの観客も本作を大いに楽しんだ様子。エンドロールが流れ始めるとすぐさま拍手が沸き起こり、Q&Aセッションで再度ステージにあがった廣木監督と湊も、うれしそうな笑顔を見せていた。

湊かなえは戸田恵梨香の演技について、「完成作を観た時に鳥肌が立った」と絶賛
湊かなえは戸田恵梨香の演技について、「完成作を観た時に鳥肌が立った」と絶賛

湊に対しては、まず原作者としてキャスティングに関わることはあるのかとの質問が投げかけられた。湊は「皆さんがいつも気にされることだと思うんですが、ほかの作品でも原作者は『この人にやってほしい』と頼むことはほぼなくて」と切りだし、「『戸田恵梨香さんが母親役をやります』と聞いた時に、『ピッタリ!』と思うのではなく、『え!戸田恵梨香さんなの!?もう母親の役をやるの?』と驚きました」と率直な想いを明かし、会場も爆笑。しかしながら「完成作を観た時に鳥肌が立った」そうで、「もうこの役は戸田恵梨香さんしか考えられない。原作を書いた時は、まったく違う顔を思い浮かべながら書いていたはずなのに、いま読み返すと戸田さんの顔しか浮かばないくらい。私のなかでは、ルミ子は戸田さんになりました」とこれ以上ないキャスティングだと絶賛。さらに「皆さんが、高畑さんのことを大好きなんだなということがわかった。本当にピッタリの役だったんだなと思いました」と観客の反応を思い返しながら目尻を下げていた。

続いて今日ここで観られてとてもハッピーという観客から「海外のことを頭に入れて映画を作るのか?」と聞かれ、湊は「なにかを制作する時に、『この国の人に受けるように作ろう』とはまったく考えていない」とコメント。「宗教や生活環境などが違っても、人間の奥底にあるものは世界に共通するものがあると思っている。きちんと登場人物の内面を描いていれば、どこの国の人にも共通するものになると思っています」と真摯に語った。さらにある男性からは「映画のなかで『女性には、母と娘という二種類がいる』という話がありました。その二種類の見分け方はありますか?」という直球の問いかけがあり、廣木監督も湊も大笑い。湊は「女性のいいところだけ見て、不都合なところから目を逸らそうとしていたら見分けがつかないと思うので、辛い時でも目を逸らさずに見ていたら、どちらか判断できるようになると思います」とサービス精神たっぷりに答え、これには会場も大盛り上がりだった。

ファンからの質問に真摯に答える廣木隆一監督
ファンからの質問に真摯に答える廣木隆一監督

女性を描く映画を多く世に送り出している廣木監督だが、本作の監督オファーを述懐し「なぜ僕にと思った」と戸惑いもあったという。「でも親と子の愛情については、自分のなかで思っていることもある。勉強ができると思って、なんでも挑戦しています」と映画づくりは未知なるものへのチャレンジでもあると力強く語り、「親と子の関係性は、本当にいっぱいあると思うんです。“これが正しい”という提示ではなく、観た方に向けて、母と子のあり方のようなものが問えればと思っています」と本作に込めた想いを吐露していた。

廣木監督の言葉に聞き入っていた湊は、「一つの物語のなかに複数の視点が存在する物語を撮られるのが、ものすごくお上手なんです」と廣木監督の手腕に賛辞を送り、「本作もそうなんですが、私の作品は“同じ物事も視点が変わると違って見える”ということを描くものが多いんです。同じ出来事も、ルミ子の視点で見た時と、清佳の視点で見た時では『こんなに表情が違うんだ』と、“画”を見たらわかるように撮ってくださった。これは廣木監督じゃないと撮れなかったと思っています」とお互いの持ち味が奇跡的にマッチし、大満足の実写化になったと太鼓判。廣木監督も「よかった~」と安堵の表情を浮かべていた。


イベント終了後にはファンによる熱狂的な歓迎を受けた!
イベント終了後にはファンによる熱狂的な歓迎を受けた!

イベント後には、熱い感想を抱えたファンが2人を待ち受けて、ロビーに人だかりができていた。廣木監督と湊もファンとの対面に大喜びで、写真撮影を求めた長蛇の列にも笑顔で応え、たっぷりとファンサービスに務めた。映画を学んでいるという男子学生は「(役者の)表情や声のトーンからも、視点の違いがわかった。すごくおもしろかった」、湊ファンという2人連れの女性は「鳥肌が立ちました!」と声を揃えて感激しきり。上映会場は2階まで観客が埋め尽くされる大盛況となり、現地での2人の人気の高さが伺えるひと時となった。

客席は満員状態!
客席は満員状態!

1982年に始まったバンクーバー国際映画祭は、“映画芸術を通じて各国の相互理解を深め、映画産業の活性化を図る”ことをテーマに掲げて毎年約300作品が上映され、これまでにも数多くのアジア人監督を取り上げてきた歴史を持つ映画祭。本作が出品されたバンクーバー国際映画祭「ショーケース」部門は、世界各国から集められた18本の長編映画によって構成され、バンクーバーの観客の心に強く響くような優れた作品に焦点を当てることを目的として、今年から新設された。第41回バンクーバー国際映画祭は、9月29日から10月9日まで開催中。本作も対象となる観客賞は、日本時間10月10日の映画祭終了後に発表される予定だ。

取材・文/成田おり枝

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