怒涛の“冒頭11分”が話題のNetflix『アテナ』。カラトーゾフ、黒澤明、リドリー・スコット…ロマン・ガヴラス監督が影響を語る

コラム

怒涛の“冒頭11分”が話題のNetflix『アテナ』。カラトーゾフ、黒澤明、リドリー・スコット…ロマン・ガヴラス監督が影響を語る

9月23日からNetflixで世界配信中の『アテナ』。SNSや口コミで評判が広がり、映画を観た人の多くが、緊迫感あふれる映画冒頭11分について触れている。9月のヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された同作は、映像作家ロマン・ガヴラスの名前を世界中に知らしめた。

【写真を見る】ヴェネチア国際映画祭で話題をさらった『アテナ』のロマン・ガヴラス監督にインタビュー!
【写真を見る】ヴェネチア国際映画祭で話題をさらった『アテナ』のロマン・ガヴラス監督にインタビュー![c]Netlix

名字から推察できるように、ギリシャの映画作家で主にフランスで活動してきた巨匠、コスタ=ガヴラスの子息で、カニエ・ウエストとJay Zの「No Church in The wild」のミュージックビデオ監督などを務めてきた。ロマン・ガヴラス監督が自身のSNSで、オープニングシーンの舞台裏映像を共有している。

フランス郊外の団地を舞台に、強い復讐心に駆られた3兄弟が群衆を率いて、民衆対公権力の戦争を引き起こす。脚本には、『レ・ミゼラブル』(19)で第72回カンヌ国際映画祭審査員賞、第45回セザール賞では作品賞など4部門を受賞したラジ・リ監督が関わっている。ラジ・リ監督と幼なじみのガヴラス監督は、「彼が映画やドキュメンタリーを作る際に、いつも一緒に組んでいました。逆に、私がミュージックビデオや映画を作っている時は、彼が手助けをしてくれます。2年前に、兄弟が袂を分かち合うというとても個人的な悲劇の物語を思いつき、一緒に脚本を書き始めました。主人公たちの怒り、悲しみ、彼らへの哀悼が地元に広がっていくように炎も広がり、やがてその怒りや悲しみは国中に広がっていく。このごく個人的な悲劇が国中に飛び火していくさまを描きたかったのです」と、ヴェネチア映画祭の記者会見で語っている。

ロマン・ガヴラス監督
ロマン・ガヴラス監督Photographed by Earl Gibson III ©Hollywood Foreign Press Association. All Rights Reserved.

「『アテナ』を、人々の感覚に語りかける映画にしたかった」と、ガヴラス監督はスピード感と没入感を喚起させる映像について説明する。「長回しの映像を駆使することで、物語がリアルタイムに起きている印象を作り出し、観客の集中力を引き付けて離さないようにしたいと考えました。キャラクターたちはリアルタイムを生きています。観客にも、一呼吸おいて考えたり、検証することなく彼らと共に走り続けているようなリアルタイムの刹那を感じてもらいたい。この悲劇は夜明けに始まり、日没に幕を閉じます。その時間軸を同時に感じてもらいたかったのです」。

まるでその場にいるかのような緊迫感あふれる映像が続く
まるでその場にいるかのような緊迫感あふれる映像が続くKourtrajmeuf Kourtrajme


そのため、映画は長回しのショットを多用する。撮影の舞台裏は映像にもある通りだが、共同脚本のラジ・リが2007年に監督したドキュメンタリー作品『365 Days in Clichy-Montfermeil(英題)』を参考に、いくつかのショットを引用したという。ガヴラス監督の過去のミュージックビデオ作品などとは異なり、『アテナ』では、ブルーバックで撮影し編集で視聴効果を加えるのではなく、実際の撮影で臨場感を出すように作られている。そのため、キャストとスタッフはおよそ1ヶ月半かけて入念なリハーサルを行ったのだそうだ。この撮影のキーパーソンは4人。監督のガヴラス、撮影監督のマティアス・ブカール(『海へのオデッセイ ジャック・クストー物語』(16))、撮影機材のMOVIのオペレーター、そしてステディカムのオペレーターという、通常の映画撮影ではチームを組むことのない4人が協働し、技術が前面に出るわけではないのに、シンプルだけど印象に残る撮影を心がけたという。冒頭のシーンでは、より広い画面で被写体を捉えるためにIMAXカメラが使われ、映像に空間と躍動感を追加している。

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