『スペンサー ダイアナの決意』クリステン・スチュワートの、ドレスコードに風穴を空けるファッション哲学とは?
『トワイライト~初恋~』(08)から約15年。その間、同作シリーズの大ヒットと共に公私共に注目度がアップして、ファンとメディア対応に神経を擦り減らした日々もあったクリステン・スチュワートだが、子役時代から高評価を得てきた演技力にはさらに磨きがかかり、『スペンサー ダイアナの決意』(21)ではついに初のオスカー候補に。同時に、ジェンダーフリーを唱える自由な生き方と、斬新なファッション哲学で話題を巻くクリステンの”オンリーワンの魅力”に迫ってみたい。
故・ダイアナ妃が夫、チャールズ皇太子(現国王)との離婚を決意するクリスマス休暇にフォーカスする『スペンサー~』では、背格好の違い(ダイアナは178センチ、クリステンは165センチ)を心の底から湧き出るような鬱屈した感情表現で補っているクリステン。話し方、歩き方、首の傾け方は本物そっくりで、それは英国アクセントを習得するための6カ月間の特訓や、ダイアナが登場するTVシリーズ「ザ・クラウン」の一気見、等々、周到な準備の賜物だった。「いままでで一番生きていると感じた」とは、演じ終えた後の本人の達成感に満ちたコメントである。
しかし、役への繊細で大胆なアプローチはいまに始まったわけではない。『トワイライト~初恋~』のヒロイン、ベラ・スワンを演じる際、「少女の初恋の目覚めが本人ではなく相手側に所有権があることのジレンマを表現した」(当時18歳)と後述しているし、フランス映画界の奇才、オリヴィエ・アサイヤス監督に演出を仰いだ『アクトレス ~女たちの舞台~』(14)では、ジュリエット・ビノシュ扮するベテランの舞台俳優、マリアに付く個人秘書のヴァレンタインを演じて、時間軸が狂いがちな主人公を現実に引き戻す不思議な役柄を好演。劇中で群がるパパラッチからマリアを守ろうとするヴァレンタインがパパラッチを「ゴキブリ」と蔑むのは、クリステンの『トワイライト~』時代の実体験を否が応でも想像させる皮肉な演出だ。クリステンはこの映画でセザール賞の助演女優賞を受賞。それは2003年のエイドリアン・ブロディ(『戦場のピアニスト』)以来となるアメリカ人の受賞だった。