「初代マクロス」山賀博之×「エヴァ」庵野秀明×『戦メリ』坂本龍一らによって生みだされた『王立宇宙軍』の“すごさ”とは

コラム

「初代マクロス」山賀博之×「エヴァ」庵野秀明×『戦メリ』坂本龍一らによって生みだされた『王立宇宙軍』の“すごさ”とは

異星のどこかで“宇宙”を目指す一人の男の物語『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

シロツグは、リイクニとの出会いにより、発奮して宇宙パイロットを志すことになる
シロツグは、リイクニとの出会いにより、発奮して宇宙パイロットを志すことになる[c] BANDAI VISUAL/GAINAX

ここで、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のあらすじを紹介しておこう。現実とは異なる地球にあるオネアミス王国に、30年の歴史はあるもののいまや人工衛星すら満足に打ち上げられず、落第軍隊として見下されている軍“王立宇宙軍”があった。そんな王立宇宙軍の兵士たちは、宇宙への夢も遠ざかり訓練もさぼり放題。主人公のシロツグ(声:森本レオ)もそんな兵士の一人だった。

そんなある日、街で神の教えを説く少女リイクニ(声:弥生みつき)に出会ったことでシロツグは変わっていく。宇宙軍を「戦争をしない軍隊」と褒める彼女の言葉に押され、シロツグは人類初の有人宇宙飛行計画の宇宙飛行士へ志願したのだ。厳しい訓練、敵国の妨害。状況が次々に変化するなか、打ち上げの日がやってくる。

平凡な青年である主人公の物語を2時間観られるワケ

シロツグが宇宙服を来たままリイクニのもとへとバイクで向かうシーンも実際に乗っているかのような臨場感だ
シロツグが宇宙服を来たままリイクニのもとへとバイクで向かうシーンも実際に乗っているかのような臨場感だ[c] BANDAI VISUAL/GAINAX

主人公のシロツグは、この世界では初となる宇宙飛行士になる男だ。隣国軍が国境へと侵攻してくるなか、強行される有人ロケットの発射。ロケットは飛ぶのか飛ばないのか。作品後半は緊迫したシーンが続き、観ている者の気持ちは否応なしに盛り上がっていく。ただ、この物語で戦争の結末は見えない。戦争の勝ち負けがポイントではないからだ。シロツグは戦争を止めるわけでも、戦局に大きな変化をもたらすわけでもない。また、シロツグの恋が成就したのかさえわからない。そう、シロツグはそれまで多くのアニメーション作品が扱ってきたタイプのヒーローではなかった。

軽快な音楽とともに、青空を背にシロツグが初めて飛行訓練をするシーンも印象的
軽快な音楽とともに、青空を背にシロツグが初めて飛行訓練をするシーンも印象的[c] BANDAI VISUAL/GAINAX

もちろん『王立宇宙軍 オネアミスの翼』にもアクションやかっこいいシーンはあるし、ロケットの打ち上げという爽快感や達成感もあり、宇宙飛行士は特別な存在でもある。だが、ヒーローと呼ばれたそれまでの主人公たち(=特別な力を得て敵と戦い悪を討つ。もし自分に力がなくても特別な存在と出会い、共に運命に逆らい乗り越えていく勇気を持った存在)に比べると、シロツグは平凡な青年だと言える。

だからこそ、と言おう。平凡な主人公の物語を2時間観続けられるのはなぜか、35年に渡り愛され続けるのはなぜか。それは、作品の魅力がそこだけに留まらず、世界観を構築する様々なデザインや緻密な動きから生まれるリアリティにあるのではないだろうか。

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