「初代マクロス」山賀博之×「エヴァ」庵野秀明×『戦メリ』坂本龍一らによって生みだされた『王立宇宙軍』の“すごさ”とは
“非現実”にリアリティを与える徹底的な作り込み
今作の舞台は、現実とは違う地球。人間をはじめ、動植物といった生態系と物理法則などはほぼ同じようだ。だが、そこで培われてきた独自の歴史、文明、技術があり、それらは我々の知るものと異なっている。これは、昨今の異世界転生モノ…剣と魔法+ちょっと昔の西洋世界とはかなり違う。
映画として主人公たちのセリフは日本語で聞こえるだけで、画面に出てくる文字は地球上のどれとも違うし、ほかの国の言語に至ってはセリフに字幕が添えられる。言語だけではない。歴史や文化が違うので、建物や服の基本デザイン、ラジオやテレビなどの電化製品、バイク、交通インフラ、生活雑貨、居酒屋、娯楽、食事、軍の艦船、戦闘機、宗教、使用される貨幣…。それらによって形作られる街や国家のデザインもかなり違ってくる。
今作では、それらに緻密な動き(作画)が加わることで圧倒的なリアリティが生まれている。細部まで丁寧に動かすことで、異質なはずのデザインが特別ではなく、さもそこにあるような存在になるのだ。わかりやすいのは派手なアクションシーンだが、扇風機などの静かなシーンの動きでもそれは変わらない。人物の動きも同じだ。極端に二枚目でもなく美人でもないキャラクターたちは、生活感あふれる動きや会話などを重ねることで人物としての背景を深め、観客のなじみを得ていく。テレビシリーズとは違う劇場版という特別な環境だとしても、その作画枚数はかなりの量になったはずだ(カットによっては描かれた原画枚数が多くなりすぎて「カット袋」を手で運ぶことができず、台車に「カット箱」を乗せて運んでいたという話も残っている)。
なぜ我々は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を求め続けたのか
この35年。なぜ、それぞれの時代において我々アニメファンは『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を最先端のメディアで観たいと思ったのか。それは今作が異世界という“嘘”にデザインと作画によってリアリティを与えることに成功したからであり、それらを最新のメディアで存分に満喫したかったからだと言える。そして今年、4Kでのリマスターが発表された。映像がより鮮明になることによって『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は一段と説得力を増すのではないだろうか。
ヒーローではない主役の生き様を切り取った本作が、新たな劇場公開と映像商品により、いまの若いアニメファンにどう受け止められていくのか楽しみでならない。
文/小林治