貞子の“井戸”を怪談専門家が徹底解説!『貞子DX』で描かれる呪いの正体とは?
『リング』(98)を皮切りに、およそ四半世紀にわたってJホラーを牽引し続けてきたホラーアイコン“貞子”。ハリウッド版や3D作品など国境も時代もメディアも超越し、その時々の流行などに適応しながら常に進化を続けてきた。そんな貞子が、SNSとパンデミック、そしてタイムパフォーマンス重視のこの時代に新たな呪いを放つ最新作『貞子DX』が10月28日(金)より公開される。
“貞子の呪い”という恐怖に震える人々を描いてきた従来のシリーズ作品とは一線を画し、24時間以内にいかにして呪いを対処していくのかという新たなアプローチで描かれる本作。時代に応じて進化し続ける貞子は、本作で見せた新しい一面以外にも、YouTuberデビューや歌舞伎とコラボを果たすなど、もはや”怨霊”という役割を超え、様々な分野で活躍を見せている。
そこでMOVIE WALKER PRESSでは、改めて「貞子はなぜ怖いのか?」という原点に立ち返り、口承文芸学と民俗学の専門家で怪異や怪談に造詣が深い、國學院大學文学部日本文学科の飯倉義之教授に話を聞いた。貞子を語る上で欠かすことのできない“井戸”と、幽霊や妖怪などの怪異との関係から、”貞子の呪い”の正体を紐解いていく。
「井戸から上がってくるものは、この世のものではない」
――「リング」シリーズでは、貞子の登場する“井戸”が恐怖の象徴となっています。人々の生活にも利用される井戸が、なぜ恐怖の対象となるのでしょうか。
「いまでは井戸というと、地面を縦に掘って水を出す“掘抜き井戸”と呼ばれるものが当たり前になっていますが、元々は“まいまいず井戸”(すりばち状に掘り窪めた井戸)や沖縄の“ガー”(地下水が湧き出た井戸)のように、自然に水が湧いているところが井戸と呼ばれていました。そして、水が湧くところはすなわち生命が生まれてくるという考えから、もともと井戸は神聖なものとして捉えられていました。それが近世に入り、自然に湧き出る井戸から堀抜き井戸へと変化していきます。
地下に向けて掘られた井戸は、我々が暮らしている陸地、すなわち”地上世界”と”地下世界”への通路となり、また井戸の水によって”水界”との通路にもなりうります。こうした2つの世界に接している境界からは、怪異や妖怪の出現や神仏の出現、はたまた奇跡的な出会いなどが起こるところであると、民俗学者の宮田登は指摘しています。
井戸は“水の世界”と”陸の世界”の間にあり、また”地下世界”と”地上世界”の間にあります。こうした2つの世界が通じているところには、”ほかの世界”からの出現者がやってきたり、逆に”ほかの世界”に行くための入口にもなっていきます。例を挙げるなら東北の遠野では、座敷童は井戸から上がってきた河童であるという話もあります。このように、井戸から上がってくるものは、この世のものではないと長年考えられ、やがてそれが恐怖の対象となってきたのです」
國學院大学文学部日本文学科 教授。研究分野は口承文芸学、民俗学、現代民俗。怪異・怪談、妖怪伝承に造詣が深く、口承文芸研究の方法を、現在の社会や文化を理解する方法として用いて研究を進めている。
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