貞子の“井戸”を怪談専門家が徹底解説!『貞子DX』で描かれる呪いの正体とは?
「怪談というものは、人々が抱えている不安を積極的に取り入れるもの」
――今回の新作『貞子DX』では、これまでの「リング」シリーズとはまた違うタイプの作品になりました。ご覧になって感じたことを教えてください。
「怪談は一旦ポピュラーになると、怖いから転じて“おなじみのキャラ”になっていくんです。たとえば日本の怪談で最初に大成功を収めた怪談狂言『東海道四谷怪談』のお岩さんは、初めはみんな怖がっていました。しかし、上演されていくにつれて出てくると拍手が起きるようになり、次第には笑いが起きるようになりました。今回の『貞子DX』では、それを逆手に取るようにして、貞子をキャラクター化することに振り切っている印象を受けました。これはなかなかうまい方法ではないでしょうか。
同時に物語を、この数年のパンデミックに寄せてきていると感じました。元々怪談というものは、その時代で人々が抱えている不安を積極的に取り入れるものです。近代化が進んでいった時代には、たまたま買った家が幽霊屋敷だったといった、閉鎖的だった村落共同体とは異なる自分に縁もゆかりもない恐怖、都会的な無縁の怖さが描かれるようになりました。1990年代に流行った『新耳袋』などの実話怪談では、不条理かつ無意味に幽霊から攻撃されるという怖さがありましたが、それはいつなにが起こるかわからない社会に我々がいて、そのなにかを起こすのは人間であることを意味しています。
そのため、パンデミックが現実の恐怖となっている現在、それを無視してホラーを作っていくことはできません。また『貞子DX』では、呪いのビデオを観た人たちに“貞子の呪い”が付きまとってくるという、ストーカーのような怖さも描かれます。SNSで知らない人が拡散した”貞子の呪い”が、身近な人へと呪いが広まっていく。これは知らない人が感染していると思っていたウイルスが、実は濃厚接触という極めて身近な人からもらうものだったという部分に通じているのでしょう」
「貞子の“増殖”は現実に起きている」
――今後、貞子がどのように進化していくか。期待をお聞かせください。
「貞子というキャラクターは、『呪怨』シリーズの俊雄くんや伽椰子さんとは異なるビジュアル的なわかりやすさが強烈です。一目で貞子だとわかり、まるでゆるキャラと同じように誰がやっても貞子であると認知されます。これは『四谷怪談』のお岩さんや『皿屋敷』のお菊さんと同じように、貞子が元の作品を知らなくても周知される存在になり、現代日本人の基礎教養の領域にまで達しているのだと思います。そういった意味では、貞子の本質である“増殖”という点は現実に起きているのだと思わずにはいられません。
初期の『リング』シリーズでは貞子の生い立ちなどのバックグラウンドについて描かれましたし、『貞子3D』では貞子の巨大化もやっていました。『貞子vs伽椰子』でホラーアイコン同士の対決もしてしまいましたから、あとはもう“メカ貞子”しか残されていないのではないでしょうか(笑)。人間が“AI貞子”を作って本物の貞子にぶつけるとか。人々が、急速に発展する最先端のテクノロジーに感じる漠然とした不安をあらわすことになるでしょう。それでもおそらく、人類側が負ける未来しか見えませんけどね…」
取材・文/久保田 和馬
國學院大学文学部日本文学科 教授。研究分野は口承文芸学、民俗学、現代民俗。怪異・怪談、妖怪伝承に造詣が深く、口承文芸研究の方法を、現在の社会や文化を理解する方法として用いて研究を進めている。
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