ついに明かされる『ONE PIECE FILM RED』制作秘話!プロデューサー陣が振り返る、“100億円”の先への挑戦
「Adoさんの歌声と、名塚さんの演技がアジャストしていったのには驚かされました」(梶本)
――100億を目指すうえで、重要な要素となった“音楽”。高野さんは、それを担うにあたってプレッシャーはありましたか?
高野「尾田先生は音楽が大好きなので、非常に強いこだわりを発揮されるのだろうとある程度の覚悟はしていました。でも、まあ『やるしかない』くらいの感覚です(笑)。もちろんプレッシャーはありましたが、楽しいものが創り出せそうな予感がしていましたし、実際、アーティストの方々とのやりとりは本当に楽しかったです」
――ウタのボイスキャストを名塚佳織さん、歌唱パートをAdoさんが担当。2人のパフォーマンス、2人が作り上げたウタというキャラクターはいかがでしたか?
梶本「Adoさんは圧倒的歌声という印象がありましたが、正直に言うとオファー段階では『ONE PIECE』とフィットするのかは未知数でした。ですが、デモの段階で“ウタとしての圧倒的な歌声”が出来上がっていたので『これは行ける』と確信しました。高野さんはAdoさんに依頼した段階で『絶対大丈夫』と自信を持って話してましたよね。音楽をたくさん聴いて知り尽くしているからこそだ、と感心していました。
歌声と喋る時の声がどうアジャストできるのかが、ウタのボイスキャストの決め手の一つでした。加えて、エモーショナルなシーンもとても多い役柄ですので、見つけるのはかなり難しいことだと思っていました。オーディションでたくさんの声を聞きましたが、名塚さんにお願いできて本当に良かったです。アフレコが始まってみると、その圧倒的なお芝居と、歌声にあわせていく対応力には本当に驚かされました。谷口悟朗監督の無茶振りを含めた演技指導の力と、名塚さんの持つ演技の力の凄さを強く感じました」
――梶本さんのお話にもあったように、「行ける!」という自信は、早い段階からあったのでしょうか?
高野「ないですね(笑)。ただ、Adoさんの歌声が入った音楽が上がってきた時には、Adoさんの楽曲やウタというキャラクターの“理解力”や“表現力”に圧倒されましたし、歌とのつながりをものすごく大切にしてもらいながら、ウタをいまのような愛される存在に作り上げてくださった名塚さんはさすがで、キャラクターが魅力的になったという実感はありました。それぞれ聞くと、2人の声はそれほど合っていないように感じるかもしれません。でもウタというキャラクターを媒介にした時にはこれ以上ないほどにぴったりマッチしている印象がありました。だからこそ、いまは誰も違和感を抱くことなくウタというキャラクターを受け入れられているのだと思います」
――実際に「100億、行けるぞ!」と実感したのはどの段階でしたか?
梶本「これまで経験したことのない数字なので、正直なところ、制作過程ではまったく実感はありませんでした。プロモーションがスタートし、6月に実施したYouTube特番で『ここまで出しちゃう?』というほど大量の情報を解禁した時の反応を見て、いままでとは明らかに違う風が吹いているのを感じました。それが自信や確信なのかと訊かれたら、そうではないかもしれないけれど、空気が全然違っていたことだけは確かです。高野さんも触れていたように、原作がとてつもなく盛り上がっていたことも一つの要因になっていると思います。『ONE PIECE』という言葉自体が盛り上がっていましたし、『ONE PIECE』という作品が好きな人、谷口監督が好きな人、Adoさんやアーティストが好きな人など、いままでは話が合わなかった人たちが『ONE PIECE FILM RED』という作品を通して『ONE PIECE』の話ができるようになったことで、コミュニケーションの幅が広がったような気がしています」
高野「私は正直、100億まで到達するとは思っていませんでした。当然目標ではあったけれど、途方もない数字ですから。実際、世界的な人気を誇る『ONE PIECE』でもこれまでの映画では100億を叩き出したことはありません。でも公開初週末だけで20億超えという報告を聞いた時は、『爆速なのでは?』と驚きました。お客さんの反応を体感して『行けるかな』という思いが芽生えた瞬間でもあります。いい作品であることは間違いないけれど、作品に関わっているがゆえにいい作品と思い込んでいるのではないか、という気持ちも公開するまでは否定できなかったので(笑)」