『母性』原作者の湊かなえ&廣木隆一監督が語り合う、ものづくりの覚悟と喜び「やりたいものがまだまだある」

インタビュー

『母性』原作者の湊かなえ&廣木隆一監督が語り合う、ものづくりの覚悟と喜び「やりたいものがまだまだある」

累計発行部数120万部を突破した湊かなえの同名小説を、『余命1か月の花嫁』(09)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17)、『ノイズ』(22)の廣木隆一監督が映画化した『母性』(11月23日公開)。湊と廣木監督が参加した第41回バンクーバー国際映画祭でのワールドプレミア上映も大盛況となり、2人の現地での人気を証明する機会となった。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、バンクーバーで湊と廣木監督のインタビューを敢行。同映画祭のQ&Aセッションでは、“複数の視点から物語を紡ぐこと”への興味について意気投合した彼らが、役者陣の印象や、代表作を生みだし続ける原動力を語り合った。

「『母性』は廣木監督でなければ撮れなかった」(湊)、「湊さんの原作には、以前から興味があった」(廣木監督)

ある事件の語り手となる母娘役として、戸田恵梨香永野芽郁が共演をした本作。“娘を愛せない母”、ルミ子(戸田)と、“母に愛されたい娘”、清佳(永野)、それぞれの視点で事件を語り、次第に食い違う2人の証言から、事件の秘密と母娘の関係性を描きだす。せつないほどの愛、そして怒りや悲しみをむきだしにする壮絶な役柄に挑んだ戸田と永野による演技合戦はもちろん、大地真央、高畑淳子が体現した“母性”も大きな見どころとなっている。

――バンクーバー国際映画祭のワールドプレミア上映では、清佳が母の愛情を求める場面ですすり泣く人の姿も見受けられました。観客と一緒に映画をご覧になって、その反応をどのように感じましたか?

湊かなえ(以下、湊)「映画が始まってすぐに、愉快な場面では笑い声が起きていたので『皆さん、こんなにもストレートに反応を表現するんだ』と驚きました。ただ、おもしろい場面で笑うということは、つまらないと思ったらため息もつくはず。反応があることがうれしい反面、怖いなと感じながら映画を観ていました。大地さんや高畑さんの出演している場面でも、皆さんが大きな反応をされていましたよね。大地さん演じる、ルミ子の実母の視点でも映画を観てくださっているんだと感じましたし、私自身、その視点で映画を観るとまた彼女の違ったバックグラウンドが見えてきたりと、新しい発見がありました」

バンクーバーで行われた『母性』ワールドプレミア
バンクーバーで行われた『母性』ワールドプレミア

――ご自身の生みだした作品について、観客から意外な反応が起こることもおもしろいものでしょうか。

湊「とても楽しいです。私は作品を描く時に、“同じ物事でも、視点を変えたら見え方がまったく違ってくる”ということを表現したいと思って、こういう見え方もあるのではないかと、いろいろと思いつくパターンを描いてきました。でもお客様の反応から、『またさらに違う見え方があったんだ』と感じることができます」

――ワールドプレミア後のQ&Aセッションでは、湊さんから「廣木監督は、一つの物語のなかに複数の視点が存在する物語を撮られるのが、ものすごくお上手なんです」というお話がありました。お2人の作家性における相性のよさを感じさせる言葉でしたが、廣木監督が本作のオファーを受けた時の感想を教えてください。

廣木隆一監督(以下、廣木)「プロデューサーの方から『この原作は、廣木監督が撮ったらきっとおもしろい映画になる』という言葉をいただいて。原作を読んでみると、僕もその“視点の描き方”にとても興味が湧きました。例えば殺人犯と被害者が一つの事件を語るということはよくあると思いますが、母の視点と娘の視点、それぞれから事件を語るという点がとてもおもしろいですよね」

ものづくりの覚悟と喜びについて語り合った
ものづくりの覚悟と喜びについて語り合った

――以前から湊さんの原作に興味はありましたか?

廣木「映像化もたくさんされていて、僕もとても興味がありました。ただ僕が“やりたいな”と思ったころには、いつもすでに映画化権が取られているんですよ(笑)!『みんな、目をつけるのが早いなあ』と思って。それくらい人気です。『母性』は複数の視点で物語を紡ぐ作品ですが、湊さんご自身、母親と娘、どちらの立場も経験していらっしゃる。先ほど言った、犯罪者と被害者を描くとしたら、それは100%想像で描くことになりますが、母娘の物語であれば、経験を反映させることもできる。それが、『母性』の物語としての強度になっているなと感じています」

――完成作をご覧になって、湊さんが廣木監督にお願いしてよかったと思われたのはどのような点でしょうか。

湊「同じ出来事も、ルミ子の視点で見た時と、清佳の視点で見た時では『こんなに表情が違うんだ』と、“画”を見たらわかるように撮ってくださった。これは廣木監督じゃないと撮れなかったと思っています。長編小説が映像化される時には、印象的なシーンをダイジェストのように切り取って終わってしまうものもあると思うんですが、廣木監督の作品はどこを切り取っても1枚の絵のように美しく、それでいて人物と感情、背景がすべてマッチして一つの物語として伝わってくる。すばらしいなと思いました。また廣木監督の作品は、“緑”がとても印象的に映しだされているなとも感じていて。水原希子さんの主演された『彼女』もそうだったんですが、森や木々など緑が美しく描かれていることで、作品の世界に自然と引き込まれていくんです。本作でも古い家屋の庭や田んぼなど、とても美しい緑が描かれていました」

2人の証言から、衝撃の過去をひも解いていく。それぞれの視点の描き方に廣木監督の手腕が光る
2人の証言から、衝撃の過去をひも解いていく。それぞれの視点の描き方に廣木監督の手腕が光る[c]2022映画「母性」製作委員会


廣木「ありがとうございます(照)」

湊「私の小説は、過激に描こうと思えば、いくらでも過剰に演出できるものだと思うんです。それをエンタメと言ってしまえばそれまでですが、ただ過激さを煽っているだけの映画だとしたら、観ている時に“すごいな”と思ったとしても、『観客の心に残るものになるか?』というとそういうわけではないですよね。廣木監督のこれまでの作品を観ていても、過激な性描写や厳しいテーマがあったとしても、映画としてとても美しく、鑑賞後にはきちんと登場人物の内面が心に残る。『母性』をお預けする時にも、廣木監督ならば、エンタメとしてのおもしろさがありながら、登場人物の心を描いた芸術性の高い作品にしていただけるのではと感じていました」

廣木「ものすごくうれしいです。今日は、ここにあるものなんでも食べてください(笑)」

湊「あはは!」


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