『母性』原作者の湊かなえ&廣木隆一監督が語り合う、ものづくりの覚悟と喜び「やりたいものがまだまだある」
「休筆をして、また創作意欲が湧いてきた」(湊)、「大事にしているのは、チャレンジ精神」(廣木監督)
――お2人は、エネルギッシュに次々と代表作を生みだされている点でも共通しています。廣木監督は、本作だけでなく、『あちらにいる鬼』(11月11日)、『月の満ち欠け』(12月2日)も年内に公開となります。
湊「これから年末にかけて、廣木監督祭りが始まる!すごいですよね」
廣木「いやいや、たまたまですよ(笑)」
湊「バンクーバーに到着してからも、とてもお元気で。健康のために、なにか心掛けていることはありますか?」
廣木「なにもしない、気にしないことですかね(笑)。でもタバコはやめました」
――ものづくりに向かう、原動力となるのはどのようなことでしょうか。
廣木「やりたいものがまだまだあるので、走り続けている感じです。映画を撮っていると、『次はまた全然違うものをつくりたい』という気持ちが湧いてくるんですよね。今度は、母親が天使のような物語も撮りたいなと思ったりする。母娘ものだと、湊さんの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』もおもしろかったですよね」
湊「実写ドラマでは、寺島しのぶさんが母親役を演じてくださったんです」
廣木「そうそう!(廣木監督作品の常連である)寺島しのぶさんや、渡辺真起子さんも出演していて、監督の1人である滝本憲吾さんは、僕の作品の助監督を務めてくれたこともあるんです。湊さんとは、そういう縁もありましたね」
――ものづくりに向き合ううえで大切にしているのは、チャレンジ精神ということでしょうか。
廣木「今回も“母性”というものは自分にはわからないものではあるけれど、だからこそ挑戦してみたいと思いました。原作を読んでも、『これはぜひ撮ってみたい』ととても刺激を受けました。それに評判がよかったものがあったとしても、『あれがウケたから、また同じようなものをつくろう』とは考えないですね。いつでもチャレンジ精神は、大事にしたいと思っています」
湊「実は私、今年は休筆宣言をしていて、新作の小説を1本も書いていません。一度そういったことをやらないと次の10年に行けないのではないかと感じて、連載や締切のない1年がほしいと、各出版社の方にお願いしました。今年は映画や舞台をたくさん観に行くことができて、最初は『こういう時間がほしかった!』とその時間を楽しんでいたんですが、だんだん『自分は向こう側にいたはずなのに』と悔しくなってきて…。『また創作する側に行きたいな』と思うことができました」
廣木「そういった時間は、ものすごく大事ですよね」
湊「ほかの方たちの作品を拝見して、創作する喜びや、形になった時の達成感を想像すると、『この人たちはおいしいビールを呑んだんだろうな』とうらやましくなったり(笑)。映画のエンドロールを見ても、『きっと完成までは大変だったんだろうけれど、最後には達成感があるんだろうな、いいなあ』と思ったり。そうすることで、私もまた小説を書こうという気持ちが湧いてきました。しんどくて辛くて、時にはやめようと思うこともあります。でも10年前に書いた小説が、こうして映画として完成したことも、自分にとってはすごいご褒美をもらえたようなもの。本作をご覧になった皆さんにも、母娘の在り方はそれぞれなんだと考えるきっかけになったら、とてもうれしいです」
取材・文/成田おり枝