デヴィッド・O・ラッセル監督が振り返る、クリスチャン・ベールら盟友と作り上げた映画『アムステルダム』「まるで小説のような日々」
「あなたにとっての“アムステルダム”はなんですか?と問いかけたい」
ベールがアカデミー賞助演男優賞を受賞した『ザ・ファイター』(10)や、ブラッドリー・クーパーとジェニファー・ローレンスが共演した『世界にひとつのプレイブック』など、ラッセル監督の作品には厳しい試練に立ち向かうアウトサイダーの人々が頻繁に登場してきた。それはこの『アムステルダム』においても守り抜かれており、特殊な世界、特殊な時代背景のなかで関わり合うキャラクターたちの物語を描くことの楽しさを、ラッセル監督は揚々と語る。
「本作の主人公たち3人は、アムステルダムで人生の時間を発見する。戦争に直面したあと、ヴァレリーは文字通りバートとハロルドの体から金属を取り出しアートにして、当時としてはまったく新しい芸術運動を起こす。それは人々が意味を見出せないようなナンセンスな歴史や狂気を、意味あるものにしていくのです」。そしてベールから教えられたという、彼の祖母の話を例に挙げる。
「クリスチャンはいつも、彼の祖母が『人生で最も幸せだったのはロンドン電撃戦の時』と語っていた、と言っていました。クリスチャンが『なぜ?』と問いかけると、彼女は『毎日死に直面しているから、自分の好きなものを愛し、本当に感謝した。コーヒーのミルクであれ、食べるものであれ、友人の会話であれ、ジョークであれ。ユーモアのセンスもよくなっていく』と答えたそうです。だからこの映画でキャラクターたちは学び、歌い、一緒にすばらしい時間を過ごす。そして私は、あなたにとっての“アムステルダム”はなんですか?生きる価値があることを思い出させてくれるものはなんですか?と問いかけたい」と本作に込めた想いを力強く語った。
そしてラッセル監督は「僕にとっての“アムステルダム”は、この映画を作るうえでのすべての経験のことでした」と続ける。「僕とクリスチャンは5年前から何度も一緒にディナーをして作品について話し合い、3年前ぐらいにマーゴットが加わり、ほかのキャストたちも次々と参加してくれました。僕らはこのストーリーを作りながら分かち合っていた。これまで30年近く、ひとりで書く作業をしてきたから、こうして友だちや仲間と一緒になにかを育てていくということが、こんなに素敵なことだったとは思ってもみませんでした」。
「なによりも、とても幸せでした」
それは主演のキャストに限らず、名優ロバート・デ・ニーロや『ボヘミアン・ラプソディ』(18)のラミ・マレック、「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ・テイラー=ジョイ、「アバター」シリーズのゾーイ・サルダナら超が付くほど豪華なキャスト陣や、撮影監督を務めたエマニュエル・ルベツキも同様だったという。「僕たちは皆、この映画を作ることにとても興奮していました。撮影中は毎日が大冒険で、まるで音楽を演奏しているバンドが、毎日新しいミュージシャンと出会い『ああ、今日はこの人と演奏するんだね』と感じるように、とても楽しい日々を過ごすことができました」。
「僕は脚本を、おそらく20回は書き直しました。自分が創造しているアートのなかを生きることができて、そこから生まれる多くのすばらしい瞬間に立ち会った。予定外のこともあったり、自分のコントロールが効かなくなることもあったけれど、結果的に楽しい経験になりました。そしてなによりも、とても幸せでした」と、盟友たちと走り抜けた『アムステルダム』という長い旅路を総括した。
構成・文/久保田 和馬