妻夫木聡「ヒース・レジャーになりたい!」『ある男』プレミアで願望を明かす
映画『ある男』のジャパンプレミアが27日、ユナイテッド・シネマ豊洲で開催され、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、眞島秀和、柄本明らキャスト陣とともに、監督の石川慶と原作者の平野啓一郎が登壇した。
妻夫木演じる弁護士の城戸章良は、安藤演じるかつての依頼者、里枝から窪田演じる亡くなった夫、大祐の身元調査を依頼される。調査を進めるなかで、里枝が愛したはずの夫は、名前も過去も分からないまったくの別人であることが判明。大祐と名乗っていた“ある男”とはいったい何者なのか。真相に迫っていくヒューマンミステリーが描かれる。
2021年の1月から3月にかけて行われた撮影を振り返り、印象に残っているのは柄本との共演シーンだと答えた妻夫木。「監督がかなりテクニカルなことに挑戦されているシーンで、観客のみなさんを引き込んでいきます。柄本さんの役は、なかなかの役で…」とネタバレにならないように説明し始めた妻夫木は「柄本さんに食われるというのはこういうことなのかな」とその演技に圧倒されたことを明かした。
しかし柄本は「覚えていないんですよね…」とニヤニヤ。共演者が大爆笑するなか、「ぶっきー(妻夫木)と会ったのは覚えています」と微笑みながら、「本当に失礼なんだけれど、今日も監督さんが誰だか分からなくて…。お辞儀をしてくださるので、こっちも返したけれどどなただったかな、原作者さんかなって。ま、そんな感じです。どうもすみません」と俯く柄本。『ウォーターボーイズ』(01)での初共演以来、毎回違う顔を見せる柄本に圧倒されていると明かした妻夫木は「なんとか柄本さんに食らいついていけるように頑張りたいと思います」と語った。
妻夫木と3度目の共演となる安藤は「顔を見ていると吸い込まれます」とニッコリ。「安心感もあるし、最近はあまりにも妻夫木さんの周りに私の親戚が登場するので、プライベートでも親戚のような気分になりつつあります」と話し、笑いを誘っていた。
安藤と夫婦役を演じた窪田は「サクラさんは愛に包まれていて、家族のシーンでは大黒柱のようで(芝居の)ベースを作ってくださいました」と振り返る。さらに本作で初挑戦した林業のシーンに触れ「チェーンソーを使いましたが、木はそう簡単に倒れないんです」と話した窪田は「樹齢80年の木を切ることは、命を自分のなかに取り入れるような儀式的な感覚になりました」と貴重な体験をレポートした。
「石川組は参加できるだけで楽しい」とコメントした眞島について「役の胡散臭さが嫌味なく入ってくるので、やっていて気持ちよかった」と解説した妻夫木。眞島は石川監督作『愚行録』(17)での妻夫木との共演に触れながら「今回も前作と同じように、僕が一方的に話して妻夫木さんが頷くというシーンでした。次回作ではぜひ別のパターンで」と再共演を熱望していた。
映画を2回鑑賞した平野は「作家冥利につきます。本当に感動しました」と満足の表情を浮かべ、「1度目は小説がどのように映像化されるかを気にしながら。2度目は映画的なロジックに注目して観ました。それぞれのシーンが結びつく様子がすごく腑に落ちました。監督の技量に敬服しました」と感想を伝えた。さらにキャストの表情にも触れ「演じた役者のみなさんと、その表情を引き出した監督のコラボレーションに胸を打たれました」と絶賛していた。
本作は、ジャパン・プレミアに先駆け第79回ヴェネツィア国際映画祭、第27回釜山国際映画祭で上映された。現地の反応を振り返り「ヴェネツィアでは最後で笑っている方が何人かいらっしゃいました。同じ映画でも国境を越えるとこんなにも捉え方が違うんだと感じました」と語った妻夫木は「釜山では映画が終わってから2回大きな拍手があって。目の肥えた方たちに、認めてもらえたことがシンプルにうれしかったです」と笑顔を浮かべていた。
コロナ禍の撮影だったため、撮影中にみんなで一緒にご飯を食べることもなかったという。釜山の映画祭に参加した安藤は「異国の地で監督と妻夫木さんたちと一緒にご飯を食べたことでやっとチームみたいな気持ちになれて、いま私たちすごく仲良しです!」とうれしそうにアピール。石川監督も「一緒にご飯を食べることがこんなにも幸せなことなんだと実感しました」と笑顔に。ヴェネツィアでは上映後数日経っても「映画、観たよ!」と声をかけられることが多かったそうで「届いたなという気持ちになりました」と思い出を語っていた。
作品にちなみ「もし、別人になれるなら誰になりたい?」というお題に答えるコーナーも。格闘技が大好きな平野は「小説でもボクシングが重要な意味を持っています」とコメントし「入場シーンと勝ったときの雄叫びの瞬間だけをやってみたいです」と明かす。本作をきっかけにボクシングを始めたという妻夫木が「ボクシング役、待っています」と報道陣にアピールすると、平野が「書きましょうか?」と提案する場面もあった。
妻夫木がなりたいのは大好きな俳優、ヒース・レジャーだという。「フィルムのなかで(役を)生きている。どんなふうに映画と向き合い、どんなふうに役と向き合っているのか。(彼の)思いをのぞいてみたいです」と憧れを口にしていた。
取材・文/タナカシノブ