ディズニーのプロデューサー山本晃久、第35回東京国際映画祭で“映画プロデューサー業”を語る
柳楽優弥主演で、二宮正明のサスペンスコミックを実写ドラマ化したディズニープラス「スター」オリジナルシリーズの「ガンニバル」(12月28日より独占配信)。本作は、現在開催中の「第35回東京国際映画祭」に正式出品され、ワールドプレミアが実施されている。この作品のプロデューサーを務めたウォルト・ディズニー・ジャパンのプロデューサー山本晃久氏が、10月28日に開催された特別セッション「~映画プロデューサーの仕事とは~」に登壇。最新作や、プロデューサーという仕事について語った。
アジア、そして世界各国・地域から集う映画人と、第一線で活躍する日本の映画人が語り合う場「交流ラウンジ」で開催された今回の特別セッション。はじめに山本氏は、自身がプロデューサーになった経緯から説明。「もともと東宝のスタジオで営業マンをやっていて映画人たちのサポートをしていて。そこで脚本を書いたりもしていました。その後、『寝ても覚めても』(18年)の濱口竜介監督の『PASSION』(08)を見て、衝撃を受けて。そこでは巧みな会話が繰り広げられていて、海外の作品のようだと感じました。登場人物からあふれ出るような言葉を感じましたね。そこで濱口監督に連絡を取り、一度お会いしたいと…」と、濱口監督との出会いを明かした。
「お金がなかったので500円の丼ランチを食べながら語り合いました(笑)。そこから、映画を作るなら、恋愛映画にしぼって、恐縮ながら、原作がある方がいいね、という話になりまして。『寝ても覚めても』を制作することになりました」と山本氏。
同作品は、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界20か国での配給も決定した。「カンヌ国際映画祭でメインコンペに選ばれて。僕もわりとびっくりしました。濱口さんと『よかったですね』と話して。その年は、是枝裕和監督の『万引き家族』が出ている年でした」と振り返った。
その後、山本氏は2021年の『ドライブ・マイ・カー』で、日本人映画プロデューサーとして初のアカデミー作品賞ノミネートを受け、C&Iエンタテインメントを経て、ウォルト・ディズニー・ジャパン所属へ。「『ドライブ・マイ・カー』は、アメリカの俳優、ジェシカ・チャステインに褒められ、スティーヴン・スピルバーグ監督には目を見開かれ、『君がそうなのか。家族も観て、けなすところがないと話していたし、自分もそう感じた』とコメントしていただきました」と、顔をほころばせた。
ディズニープラス「スター」オリジナルシリーズで配信されるドラマ「ガンニバル」の脚本も『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允氏が務める(『ドライブ・マイ・カー』は濱口竜介との共同脚本)。イベントのモデレーターで、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏が「この作品はかなりグロテスクですね。これがディズニーで通ったのはすごい」と目を丸くすると、山本氏は「ええ、本当に。新しいディズニーを打ち出せる作品。ただ、おどろおどろしさだけでなく、ストーリーがしっかりあるものをやりたいと思って作っています。ディズニーでは他にも作っていく予定なので、楽しみにしていてください」と意気込んでいた。
その他、Q&Aのコーナーで、「プロデューサーとは何か?」と質問を受けた山本氏。「まだまだひよっこで勉強しているところなので、今後考え方も変わっていく気がするけれど…自分は1番の観客でなければならないと思う。監督のことを理解できる人でなければならないし、作品のイメージを厳しく、愛情を持ってずっと考えることが必要かなと。それが役割かなと。作品の持つ、あるいは持ちたがっているイメージの純度を高めるためにどのような準備ができるか。監督の方向がずれていったときに『こっちですよ』と言えるかどうか。新しい作品も観て、“自分の中の観客”を育てていかなくては、と思っています」と謙遜しながら語りつつ、「予算の管理をしたり、キャストを考えたり。現場に行って、現場では念を送ったり。『事件は現場で起こる』じゃないですけど、重大な岐路であったり、監督や組が方向を間違えそうになったりしたとき、いるだけで助けになると思うので、現場にいることも重要だと思っています」と熱弁していた。
取材・文/平井あゆみ