深田晃司監督、イニャリトゥ監督との黒澤明賞受賞に感激!賞金の使い道は、芸能に携わる人の“心の健康”を守る活動に

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深田晃司監督、イニャリトゥ監督との黒澤明賞受賞に感激!賞金の使い道は、芸能に携わる人の“心の健康”を守る活動に

開催中の第35回東京国際映画祭で10月29日、14年ぶりに復活した黒澤明賞の授賞式が行われ、受賞者のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と深田晃司監督が出席。晴れやかな笑顔でトロフィーを手にした。

黒澤明賞は、日本が世界に誇る黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出していくために、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞。過去にはスティーヴン・スピルバーグ、山田洋次、侯孝賢などが受賞していた同賞。今年は、山田洋次監督、仲代達矢、原田美枝子、川本三郎、市山尚三東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの5名の選考委員によって、受賞者が決定した。

【写真を見る】トロフィーを受け取るアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
【写真を見る】トロフィーを受け取るアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督

イニャリトゥ監督は、2000年に『アモーレス・ペロス』で長編映画監督デビューし、同作で第53回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門、第13回東京国際映画祭でグランプリを受賞、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた。以降、最新作『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は、本年度ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出され、今年の東京国際映画祭のガラ・セレクション部門で上映されている。

日本愛を語ったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
日本愛を語ったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督

来日したイニャリトゥ監督と深田監督は、ステージにあがると笑顔で握手を交わした。「こうして深田監督と共に、すばらしい、意義のある賞を受けることは大いなる喜びです」と切りだしたイニャリトゥ監督は、「私が東京に初めて来たのは22年前」と第13回東京国際映画祭でデビュー作『アモーレス・ペロス』がコンペティション部門に選出されて初来日を果たしたことを振り返った。『アモーレス・ペロス』は同映画祭でグランプリや監督賞を受賞しており、「運に恵まれた。当時で10万ドル相当の賞金を得た。低予算でつくったのに、大金をいただけた」と目尻を下げ、「その7年後には『バベル』を撮影するために、また来日して5か月間、日本に住んでいました。美しいこの場所を自分の家にできたこと。クルー、キャストにも恵まれて、人生のなかでも一番幸せな瞬間の一つとして思い出に残っています」と日本愛を語った。

それからも家族ぐるみで日本文化に触れる機会を持ち続けてきたというイニャリトゥ監督だが、「日本の音楽、文学、映画から、私は多大なる影響を受けてきた」としみじみ。「黒澤明監督は巨匠のなかの巨匠。映画の殿堂のなかの、神と呼べる方。黒澤監督の作品は人間性、複雑さを映画のなかに描かれていて、私も特に感銘を受けた作品がある」と告白する。「まず、『羅生門』。『アモーレス・ペロス』に影響が現れている。『乱』と『七人の侍』は、『レヴェナント 蘇えりし者』に生かされていると思います。そして『生きる』は、『ビューティフル』に影響が見て取れると思います。また東京を訪れる機会をいただき、皆さまとすごせることをとてもうれしく思います」と喜びをかみ締めていた。

トロフィーを受け取る深田晃司監督
トロフィーを受け取る深田晃司監督

一方の深田晃司監督は、2016年の『淵に立つ』が第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞。新型コロナウイルス感染拡大の影響で経営危機に陥るミニシアターが続出したことに対し、濱口竜介監督らと共に、クラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げるなど、若手映画監督としての枠を超えた活動をしている。

深田監督は「イニャリトゥ監督のような偉大な先輩と、同じ名前の賞をいただけたことをとてもうれしく思います」とにっこり。受賞について「『今後も頑張れ』という叱咤の意味合いがあると思って、頑張っていきたいと思います」と宣言した。

スピーチを行った
スピーチを行った

10代から映画が好きになり、映画ばかり観る中学、高校時代を過ごしてきたという深田監督。黒澤、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男などの作品を観て育ち、「映画学校に行って、映画業界に入った」と自己紹介したが、自分が足を踏み入れた頃には、すでに黒澤監督たちが活躍していた日本映画の全盛期の映画業界とは「だいぶ違うものになっていた」と打ち明ける。


黒澤明賞を受賞したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と深田晃司監督
黒澤明賞を受賞したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と深田晃司監督

続けて、いまでは俳優もスタッフも「不安定な状況で働いています。不安定な収入や雇用形態、時間労働などが続いていたなかで、さらにコロナ禍になったことによってますます私たちの仕事は厳しいことになった」と一層状況はシビアになっていると話し、「俳優でも自殺する方が増えたり、スタッフでも仕事をなくす、または辞めていく人が増えています。芸術文化に携わる人は、ただでさえ評価にさらされ続けるので、精神的に大きなストレスを抱えながら生きている。そういった彼らがコロナ禍で仕事をなくしていく状況もある」とコメント。「芸術に携わる人たちの心の健康を守ることが、いま非常に大事な課題になっています」と意見を語る。

映画業界の抱える問題について自身の考えを述べた深田監督は、「日本芸能従事者協会という団体が、『芸能従事者こころの119』というメンタルケア窓口サービスを開いています。黒澤明賞の賞金は、そのメンタルケアの相談窓口の存続のために寄付したい思います」と今回の賞金は、業界の課題と未来のために使いたいという。最後に「ちなみに、一番好きな黒澤明『どですかでん』です」と付け加えた深田監督。その熱弁に拍手があがっていた。

取材・文/成田おり枝

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